創業者が65年かけて作った600店の洋菓子チェーン顧客第一の“三喜経営”でグループ年商800億円/ シャトレーゼ  齊藤 寛 会長【後編】

シャトレーゼホールディングス(山梨県甲府市)

齊藤 寛 会長

山梨県のブドウ農家で生まれた一人の男が、65年の歳月をかけて一大洋菓子チェーンを築き上げた。「シャトレーゼ」。国内・海外を合わせて約600店を展開する同社のビジネスモデルは、スイーツのSPA(製造小売)だ。しかも契約農家から材料を直接仕入れてから自社工場で製造するという、一気通貫が特徴だ。幾多の苦難を、卓抜なアイデアと行動力で乗り越えてきた同社の創業者、齊藤寛会長の軌跡を追った

(※2020年10月「Top Interview」より)

齊藤 寛 会長(86)

Profile さいとう・ひろし

1934年、山梨県出身。山梨県立日川高校を卒業。54年に甘太郎を設立。67年、甘太郎と64年に設立した大和アイスを合併してシャトレーゼを設立し、代表取締役に就任。2018年から現職。

直売店舗のロードサイド展開という、新たなビジネスモデルを確立した同社。繁盛の評判を聞きつけ、「自分にもやらせて欲しい」という問い合わせが殺到し、FC店も一気に増えた。この結果、本社工場建設からわずか10年で、年商は48億円から4倍の200億円に急増した。ここで齊藤会長は、本格的な全国展開に向けてさらに手を打つ。


──年商が200億円に達したタイミングで、山梨の白州と豊富に相次いで新工場を建設されました。


齊藤 白州工場はちょうど60歳の頃に建設しました。本社工場からそれほど離れていないところに、なぜまた、わざわざ巨費を投じて新工場をつくる必要があるんだという声もありましたが、白州はとにかく水が良い。うちの商品はとにかく品質が命ですから、白州の水は絶対に欠かせませんでした。

──白州と言えば、サントリーのウィスキー工場があることでも有名です。


齊藤 また、水以外の理由もありました。良い商品を全国に送るためには、最新の冷凍設備と物流施設が不可欠。それで冷凍設備を白州工場に導入する一方で、物流拠点として豊富工場は建設しました。この2つの工場が完成したことで、「シャトレーゼ」は北は北海道から南は九州まで、本格的に全国展開ができるようになりました。


──「シャトレーゼ」の象徴とも言うべき「ファームファクトリー」が始まったのもちょうどその頃です。

齊藤 世の中には良い物を作っている農家がたくさんあります。しかし農協の規格に当てはめてしまうと、それがきちんと評価されない。これではがんばっている農家のみなさんは不満ですよね。私も農家の出身ですから、一次生産者のみなさんの気持ちがよく分かるんです。それで良いものをきちんと評価するために「ファームファクトリー」を作ったのです。


──高品質な商品をリーズナブルな価格で提供するための仕組みが、この「ファームファクトリー」を始めたことで実現できたのですね。


齊藤 「シャトレーゼ」の一番の強みは何かというと商品力なんですが、これは契約農家と直接契約しているからできることなのです。今では牛乳は長野県の延山にある牧場、卵は清里の農場、そして生クリームは北海道の明治乳業から直接仕入れています。蓬(よもぎ)の葉にいたっては、天然物でないと良い香りがしないので、毎年社員が山まで採りに行ったり、山師に頼んで積んできてもらっています。


── 一次産業から二次産業、そして流通までの一貫したSPAは、ユニクロをはじめとしたアパレルがよく知られていますが、御社はそれよりも早い段階からこうした仕組みを確立されたということですね


齊藤 アパレルさんの場合は、製造は各地にある下請けがやっています。その点、うちの

場合は企画から製造、流通まで100%自社でやっているので、同じSPAでもその内容は大きく異なります。


▲白州工場は水資源に恵まれ最新の冷凍設備も完備

次々と降りかかる災難を斬新なアイデアで克服

次世代へ引き継ぐためにHD体制に移行

白州工場の完成から10年後には、ついに年商500億円の大台に達した同社。このとき齊藤会長は70歳。しかし、その順調な成長の一方で、後を任せられるような人材が育っていないという問題に直面していた。思い切って断行した社長交代も、結果は期待を大きく裏切るものとなった。そこで新たに導入したのが、社内カンパニー制だ。


── 創業から50年。70歳を越えられた頃に、大きな組織改革に取り組まれたそうですね。


齊藤 年商500億円まではワンマンでも何とかやってこれましたが、それ以上となると幹部も育てていかなければならない。そう考えて2回、別の人間に社長を任せてみました。その間、私は口を出さないように北海道に引っ込んでいたのですが、これが見事に大失敗してしまいました。500億円あった売り上げは、あっという間に400億円にまで落ちてしまったのです。

どうしたものかと相当悩みましたね。ところがふと、若い連中に任せていたゴルフ場やホテルなどの子会社を見てみると、そちらはうまくいっている。要は、まだ力がついてない段階でいきなり500億円の会社を任せること自体に無理があったのです。

▲衛生管理が徹底された製造工場内の様子

── そうした失敗の経験から、今度はグループをホールディング化されたわけですね。


齊藤 ──大きい会社は無理でも、小さな会社であれば何とかなる──そう考えたわけです。今ではグループ会社は20数社あり、それぞれに社長を置いて任せています。中には20歳代の若い社長もいます。また、グループの中心であるシャトレーゼについては、社内カンパニー制を導入して事業を細分化しました。おかげで社員一人一人が「どうやって売上を上げるか」「生産性をどうやって上げるか」「どうやってコストを下げるか」と自主的に考えるようになりました。      


── 社員の意識改革にも、長年力を入れてこられました。


齊藤 経営が順調な時こそ緊張感を持たなければなりません。武田信玄の言葉に「五分では励み、七分では怠り、十分では奢りが生じる」というのをご存知でしょうか。よく「製造と販売のバランスがとれると良い」と言いますが、信玄公の言葉を借りれば、十分だと感じた時こそ驕りが生まれないように、緊張感を持たなければならないのです。ですから製造と販売で常に競争するように、それぞれの目標を順番に引き上げるようにしています。そうすれば、どちらも相手に追い付こうと、一生懸命仕事に取り組むようになります。あえてバランスを取らないように誘導する、これが五分を保つ秘訣なのです。


持株会社制と社内カンパニー制度の導入により、大きく変わったシャトレーゼ。2012年からは海外店舗展開も本格的にスタートし、売上は単体で約600億円、グループ全体では約800億円に到達した。山梨の一洋菓子店が業界の一大チェーンに成長できたのは、長年守り続けてきた経営理念があったからだという。


── シャトレーゼの店舗は全国にありますが、フランチャイズだということは意外に知られてはいません。1店舗をつくるのにかかる投資額はおおよそ3000万から4000万円だそうですが、年間でどのくらいの売上が上がるのでしょうか。


齊藤 だいたい1億4000万円前後です。したがって投資回収には5年かかりません。

         

── 業種、法人・個人を問わず、様々な方がFCに加盟されています。これは何をやっているかではなく、経営理念に賛同してくれるかどうかを重視して、加盟を決めているということですね。


齊藤 シャトレーゼは“三喜経営”を掲げています。これは誰に喜んでもらいたいか、その順番を「お客様」「お取引先」そして「社員」と明確化したもので、何をやるにしてもこの順番を守るようにしています。実は以前、うちも上場に向けた準備を進めたことがあったのですが、前夜になって取りやめました。上場は信用面でも資金面でも色々なメリットがありますが、一方で株主のことを第一に考えた経営が求められます。つまりお客様が第一ではなくなってしまうんですね。ずっと守り続けてきた“三喜経営”の理念を捨ててまで上場する意味はないと考え、それで白紙撤回したわけです。何もかも準備は整っていたので、色々な方に迷惑をかけることになってしまいましたが、正しい決断だったと思っています。


── 店舗数は全国で500店舗を越えました。


齊藤 フランチャイズは非常に好調ですが、うちはあまり数を追わないようにしています。なぜかと言うと、日本は競争社会ですから、店自体に力がないと結局生き残ることができないからです。


▲洋菓子を中心に、多種の商品を取り揃えている。

           

── シャトレーゼはフランチャイズでありながら、本部がロイヤリティをもらわない珍しいチェーンです。 


齊藤 ロイヤリティ収入が増えれば本部が儲かりますから、みんな加盟店を増やしたがりますが、それでは結局長続きしません。昔は我々以外にも幾つも洋菓子チェーンがありましたが、みんな数ばかり増やすことに目がいってしまい、結局失敗しました。そもそもロイヤリティはアメリカのシステムですから、そんなところまで真似する必要はありません。私はそれよりも、もっと日本人らしいというか、ファミリー的な組織を作りたいと考えています。


── 会長がこの仕事を始められてから65年。今なお元気ですが、今後のビジョンについてはどのように考えていますか。


齊藤 目指すは100年。計画はちゃんと立てていて、ちゃんとその路線に乗っています。私はとにかく、今のお菓子を世界中の方に召し上がってもらいたい。海外は、今はまだ現地で良い素材を調達することが難しいため、日本で作ったものを冷凍して船で輸送していますが、いずれは向こうにも工場を作りたい。そして世界中にリーズナブルで美味しいものを届けられればと考えています。


(前編はこちら

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