
【連載 第4回目】外食のプロ経営者が伝授する労務管理 虎の巻
公開日:2025.10.01
最終更新日:2025.09.24
※以下はビジネスチャンス2025年10月号から抜粋した記事で、内容は掲載時の情報です。
標準原価を理解し効率化で利益を守る
飲食店経営者が知っておきたい「標準原価」の考え方
コロナ禍が明け、2024年の訪日旅客数は過去最高を記録した。しかし、飲食業界は今も試練の中にいる。当連載では、外食FCに長きに渡り携わってきた安田隆之社長が、現場の「気づき」から得たノウハウを綴っていく。
物価高騰時代のコスト管理法
消費者物価指数の推移を少し振り返ってみると、2022年度から2024年度にかけて2〜3%の範囲で上昇しています。さらに、2025年度の3月から5月にかけては、なんと3カ月連続で上昇率が3%を超えています。つまり、この3年ちょっとで物価が1割以上も上昇したということです。物価が上昇し、消費者の財布の紐が硬くなっている昨今、会社の生き残りのためには売上を作る努力はもちろん、コスト管理を行う仕組みを確立することが不可欠です。
そんな取り組みのひとつとして、前回は「標準原価」についてご紹介しました。「標準原価」とは、単なる「仕入れ額」ではなく、製造業において製造時に目標とすべき原価のことを指します。製品ごとの原材料の使用量や価格、従業員の人件費などの労務費、そして製品を作る際にかかる家賃や水道光熱費などの間接費を全て織り込んで計算します。
原価については、ある程度はモデル化して算出することができるものの、コストの中で大きな割合を占める労務費は、その割り当てが難しいことがあります。労務費とは、フロアでの接客、営業時間外の開店や閉店作業、受発注や締め作業のマネージャーワークなど、あらゆる作業に発生する費用を指します。これらをどうやって商品ごとに割り当てすれば良いのか、その統一ルールを作ることだけでも大変な作業だからです。
しかしだからと言って、労務費をきちんと管理する手法を持たずに店舗経営を行うことは危険です。労務費において統一したルールを作り辛いという事実にこそ、労務費管理が疎かになりがちな罠が潜んでいると思います。今回は、飲食業界全体で当たり前のように語られている、「売上に対する労務費」というざっくりとした括りで管理するのではなく、もう少し正確に把握したり、大まかに「労務費」として括るのではなく、「店舗の労務効率性」を切り出す方法を考えてみたいと思います。
人時生産性と接遇客数を活用
これらを考えるにあたって、よく「人時生産性」という指標が用いられています。これは店舗売上を労働投入時間数の総和(=正社員やアルバイトを問わず全従業員の総労働時間数)で割ったものです。つまり、従業員1人1時間あたりの売上を示すもので、労働投入量が適正かどうかを判断する指標として、飲食業態を含む小売業で広く用いられています。この指標は、労務費の効率性を見る、いわば標準装備品のようなものですから、導入されていない会社はすぐに導入することを強くお勧めします。
そして、もうひとつ提案したいのが、「人時接遇客数」です。聞きなれない指標かもしれませんが、これは客数を労働投入時間数の総和で割ったものです。つまり、「ひとつの店舗で従業員1人1時間あたりで、何人のお客様を捌くことができたか」を表す指標で、ダイレクトにその店舗の労働効率性を示すことができる指標です。ちなみに、私の会社では全店でこの指標を月次の業績評価に導入しています。この指標の良いところは、労働投入量が適正水準を充足しているのかどうかを一目で把握しやすいところにあります。
まず、このふたつの指標を1店舗でもいいので、月毎に1年間分算出してみてください。そして、その月次の数値の推移と月次の労務比率の推移を見比べてみてください。何か得るところがあると思います。
Profile Kissaco 安田 隆之社長(64)
1960年生まれ。86年3月、中央大学大学院法学研究科修士課程修了。同年4月にモービル石油株式会社入社。2005年、日本マクドナルドホールディングス入社。08年に同社取締役管理部門統括上席執行役員に就任。11年に同社を退職し、株式会社コメダの代表執行役社長に就任。13年に株式会社Kissaco設立、代表取締役社長に就任。
関連記事
▶【連載 第3回目】外食のプロ経営者が伝授する労務管理 虎の巻
▶【連載 第2回目】外食のプロ経営者が伝授する労務管理 虎の巻
▶【連載 第1回目】外食のプロ経営者が伝授する労務管理 虎の巻
次なる成長を目指す
すべての経営者を応援する
フランチャイズ業界の専門情報誌
フランチャイズ業界唯一の専門情報誌として、毎号さまざまな切り口をもとに新興本部から大手本部までをフォーカス。またFCを自社の新たな経営戦略として位置付け、中長期的な経営を目指す経営層に向け、メガフランチャイジーの情報も提供しています。

次号発売のお知らせ
2025年10月22日発売
記事アクセスランキング
次なる成長を担うすべての起業家を応援する
起業&新規事業の専門情報誌
“起業のヒント” が毎号充実! “ビジネスチャンス” の宝庫です。
すぐにでも役立つ独業・開業・転業・副業サポートの雑誌です。
資金をかけずに始められる新しいビジネスの紹介、FC、経営・会社運営のノウハウなど、多くの経営者からの“起業のヒント”が毎号充実。
