【大興産業】事業多角化と現場主義で変化に強い組織づくり

公開日:2025.10.30

最終更新日:2025.10.21

※以下はビジネスチャンス2025年10月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。

外食から美容、フィットネスにも事業展開

 大興産業・ベクトルグループは、東京都板橋区で複数業態を展開するフランチャイジーだ。大興産業、ベクトルワン、ベクトルツー、ベクトルスリーの4社で構成され、飲食や美容室、フィットネスのほか、福祉施設や太陽光発電システム事業を展開している。島田英樹社長の長男で現在、同社の統括部長を務める島田陽平氏に同社のFC経営について話を聞いた。

FCビジネス1号店はモスバーガー 雑居ビル階段上げから始まった

 同社は現在、モスバーガー3店舗、牛角3店舗、イレブンカット7店舗、エニタイムフィットネス4店舗を展開している。島田英樹社長が1983年に独立し、モスバーガー東武練馬店をオープン。1986年に法人化し、大興産業を立ち上げた。
 年商はグループ全体で12憶8000万円だ。内訳は、モスバーガーとエニタイムを展開する大興産業が5憶2000万円、牛角を展開するベクトルワンが5億円、イレブンカットを展開するベクトルスリーが2憶6000万円。出退店を繰り返しながらも、毎年11億円から13億円ほどの売上で推移している。
 島田英樹社長は大学卒業後、すかいらーくに入社。もともと独立志向が強く、ジョナサンのブランドの立ち上げや店長としての経験を積み、29歳で独立した。独立に必要な資金を貯めるため、家賃1万円、風呂なし、トイレ共同のアパートで生活した。800万円を自力で貯め、祖父からの借り入れや国金の融資でスタートラインに立つことができ、モスバーガー1号店を開店した。
 数あるブランドの中からモスバーガーを選んだのは、当時発行していた雑誌「月刊フランチャイズ」を読んだのがきっかけだった。モスバーガーのオーナーインタビュー記事が掲載されており、店舗の規模感が島田社長の腑に落ちたという。記事にあった店舗の電話番号に電話をかけ、休日にオペレーションを無償で学びに行った。
「その特集されたオーナーさんとの関係が深くなる中で、出店するなら自分もモスバーガーだと決めたそうです。この人がやっているなら間違いないと感じたと聞いています。自分が開業する際には、連帯保証人にまでなってくださったんです」(島田統括部長)
 1983年にモスバーガー東武練馬店を開店。雑居ビル1階に構えた狭小店舗で、店内に冷蔵庫を置くスペースがなかったため、搬入された食材を3階まで運ぶ必要があった。アルバイトも社員も関係なく階段を使って運び上げ、なんとか営業を続けた。
 同店の経営を軌道に乗せた後は、常盤台、五本けやきと1年に1店舗のペースで店舗を拡大。1986年には法人化し、大興産業を設立した。すかいらーく時代の仲間も合流し、最盛期にはモスバーガーを最大6店舗まで増やしたが、その後は順風満帆とはいかず、マクドナルドによる50円バーガーキャンペーンなど、価格競争で苦戦を強いられたという。
「10店舗まで増やそうと頑張ったそうですが、イメージ戦略においてマクドナルドに圧倒的にお客様を持っていかれてしまいました。品質のモスバーガーと安いマクドナルド、というふうに棲み分けられてしまい、これは厳しいなと感じたそうです」(島田統括部長)
 そこで展開するブランドがモスバーガーだけでは経営のリスクが高いと考え、事業の多角化を決断。次なる柱として焼肉チェーン「牛角」に目を向けた。法人化して約15年が経過した後のことだった。

#美容室
#福祉施設
#フランチャイズ
#飲食
#フィットネス
#大興産業
#島田陽平統括部長

独立後、最初に加盟したブランドのモスバーガー、写真はときわ台店

変遷にあるのは柔軟な対応 時勢に適応したブランド選定

 牛角の加盟は、モスバーガーのオーナーの繋がりがきっかけだった。オーナー仲間が運営する牛角の店舗で食事をしながら店を観察し、加盟を決めた。20代でも来店しやすいブラ ンディングに魅力を感じたという。
 モスバーガーを板橋区や豊島区で展開していたことから、牛角も同エリアでの出店を希望した。同社が2000年に出店した池袋明治通り店は、牛角の20店舗目と全体の出店数としてもまだ少なく、直営店や他FCの展開エリアと被らずに出店することができた。その後牛角も順調に出店を伸ばし、最大7店舗展開している。
 ただ、牛角もリスクと隣り合わせだった。BSEやレバ刺し問題を経て、食品を扱う業態のリスクを痛感。そこで島田社長はさらなるリスクヘッジとして、美容室チェーン「イレブンカット」に注目した。イレブンカットの役員と、牛角のオーナー会である牛友会で出会い、話しが進んだ。この業態には、飲食業と同じように職人型から企業型への変化が起きると説明を受け、感じるものがあったという。
「当時、飲食業界では独立が当たり前の選択肢で、美容師もそれに近しい文化を持っていたそうです。しかし、チェーン展開を含め、美容師のサラリーマン化や企業化を望む人が増えると予測しており、父はそれが飲食業界と近い性質にあると感じたそうです」(島田統括部長)
 美容室という異業種への進出は不安もあったが、来店型業態として安定的に利益が見込め、さらに食中毒などの衛生リスクも回避できる点で有利だった。

#美容室
#福祉施設
#フランチャイズ
#飲食
#フィットネス
#大興産業
#島田陽平統括部長

2本目の柱として加盟した牛角、池袋サンシャイン通り店

サブスク型ビジネスに注目 出合った「エニタイム」

 その後の事業展開において、島田社長が注目したのはサブスク型ビジネスだ。従来の飲食や美容は、来店してもらって初めて売上が立つモデルだが、それでは大きな収益の積み上げは期待できない。それをストック型のビジネスモデルにより解決しようとした。そこで出合ったのが時間ジム「エニタイムフィットネス」だ。
 この業態も牛角のオーナーの紹介から始まった。当初はカーブスの加盟を検討していたが、展開済み店舗数の多さから加盟には至らなかった。島田社長は、ブランド展開して間もないFCブランドにリスクを背負って加盟する、というスタイルを貫いていたことから方針と合わなかったという。
 代わりにアメリカから上陸したばかりのエニタイムに注目。オーナー仲間からエニタイムの事を聞くと、すぐに情報収集を開始した。当時学生だった、アメリカ留学中の島田陽平統括部長にも「アメリカに24時間のジムってあるか」と国際電話で確認して来た。
「いきなり父から電話がかかってきてびっくりしました。アメリカには当時からゴールドジムなど、さまざまな24時間ジムがあると答えたら、「わかった、ありがとう」と言われて切られてしまいました(笑)。その翌月にはすぐ日本法人の本社にアポイントを取って話を聞いたそうです」
 Fast Fitness Japanの社長も務めた土屋敦之氏(当時)の、ロジカルかつ熱意にあふれた姿勢に触れ、加盟を決めた。2014年に東池袋にエニタイム1号店を出店。当初は認知度も低く、立地もわかりにくい場所だったが、7500万円をかけてオープンした。地道に出店を重ね、現在では4店舗を展開している。
 ただ、その後の出店にはブレーキがかかってしまったという。2017年頃から、パチンコやスーパー、ブックオフなど大型テナントを抱えている企業がエニタイムに業態変更をするラッシュが起きたのだ。こうした大手企業は、自社で物件開発部門を持っており、新規出店が容易だ。そのため、一時、本部がこれらの企業に注力。同社は以降、エニタイムの中規模店の出店や既存他ブランド店舗の改装、イレブンカットの出店に取り組んでいる。

#美容室
#福祉施設
#フランチャイズ
#飲食
#フィットネス
#大興産業
#島田陽平統括部長

美容室業態のイレブンカット、サニーモール西葛西店

退去まで計算した資金計画が必要 コロナ禍に吹いた「モスの神風」

 島田統括部長の最近の悩みの種は、経営のあらゆる面でのコストアップだという。2025年3月にオープンしたエニタイムフィットネス亀有店は、同社にとってエニタイム出店の4店目だが、80坪のツーフロアで、その投資額は1億3000万円と、1号店の時の2倍近くに達した。内訳は内装5000万円、B工事1100万円、解体費500万円、マシン費3000万円などのほか、契約などにかかる費用や看板設計費、会員管理システムやセキュリティなどの金額がかかっている。建材の高騰もあり、当初予算より20%ほど高く着地している。また、近年において他店舗でもリニューアルによる投資が発生している。エニタイムとの年契約によるエニタイム東池袋店のリニューアル、牛角やモスバーガーの店舗のリニューアルなど、それぞれ5000~7000万円を費やしている。
 新規出店の時だけでなく、最近は退去時にも費用がかかることを痛感しているという。牛角を閉店した際には、ブランドの世界観を残さないという本部の方針で、1500万円をかけて内装を現状回復した経験もある。銀行から借入が重なり、必要な時に満額借りられないタイミングもでてくるため、これらの出費を計算に入れた資金計画が重要だという。
 同社がこれまで一番厳しかった時期はコロナ禍で、全業態が大きな打撃を受けた。エニタイムは2カ月の休館で、各店で200人ほどの退会者がでている。密を避ける目的から牛角やイレブンカットも客足が遠のいたなか、モスバーガーはテイクアウト業態だったことから売上が伸びたという。
「本当に厳しい時期を過ごしていたなか、会社を助けてくれたのがモスバーガーです。テイクアウトを行っていたことと、ウーバーイーツの追い風もあり、店舗の当時過去最高売り上げを記録しています。私たちは勝手に『モスの神風』って呼んでいます(笑)」

自ら現場に足を運ぶことを重視 新ブランドにも挑戦

 島田部長は大学卒業後、一般企業に就職し、食肉専門商社で食肉産業に従事していたが、父親の社長が体調を崩したことに加えて、人員不足により家業を手伝うことになった。食肉学校に半年間通い、解体から精肉まで学んだ。とくに衛生面の知識は、飲食店の安全管理に寄与している。
 グループ全体で210人ほどの従業員を抱えるなか、島田統括部長は自ら現場に足を運ぶことを大切にしている。週末はモスに立ち、エニタイムでは月2回のミーティングを行うなど、スタッフとの接点を重視している。
 島田統括部長の次なる目標は、社長就任と各業態の土台強化、店舗拡大、そして新ブランドへの挑戦だ。来年にはモスフードサービスとの契約更新が控えており、次世代オーナー研修にも参加している。ブランド数をさらに増やし、多角経営を進めていく。
「これまでもさまざまな人との出会いがあったからこそ事業の多角化を実現でき、いまの大興産業に繋がっていると感じています。これからもそういった出会いや、社長自身が先輩オーナーから学んで体現している現場の感覚を大切にしながら、新たなブランドへの挑戦も計画しているので、各事業をより発展させていきたいです」(島田統括部長)

#美容室
#福祉施設
#フランチャイズ
#飲食
#フィットネス
#大興産業
#島田陽平統括部長

サブスクビジネスの注目したエニタイムフィットネス、亀有店

会社概要
代表者 島田 英樹
所在地 東京都板橋区
設 立 1986年
年 商 12億8000万円
事業内容 飲食事業、美容事業、フィットネス事業、福祉事業
グループ会社 有限会社ベクトルワン、有限会社ベクトルツー、株式会社ベクトルスリー

大興産業
(東京都板橋区)
島田陽平統括部長(32)

 

 

 

 

関連記事

【JR九州ファーストフーズ】九州の「駅」から商業施設とロードサイドの両輪でエリア拡大(前編)
【エニタイムフィットネス】現役世代の需要掘り起こした24時間マシン特化型ジム
【アメリカヤコーポレーション】17等級の基準に分類して人材を評価複数担当者の目で公平に考課

 

次なる成長を目指す
すべての経営者を応援する
フランチャイズ業界の専門情報誌

フランチャイズ業界唯一の専門情報誌として、毎号さまざまな切り口をもとに新興本部から大手本部までをフォーカス。またFCを自社の新たな経営戦略として位置付け、中長期的な経営を目指す経営層に向け、メガフランチャイジーの情報も提供しています。

記事アクセスランキング
次なる成長を担うすべての起業家を応援する
起業&新規事業の専門情報誌

“起業のヒント” が毎号充実! “ビジネスチャンス” の宝庫です。
すぐにでも役立つ独業・開業・転業・副業サポートの雑誌です。
資金をかけずに始められる新しいビジネスの紹介、FC、経営・会社運営のノウハウなど、多くの経営者からの“起業のヒント”が毎号充実。

定期購読お申し込みはこちら