【ロイヤルホールディングス】多角的なポートフォリオ経営のカギはDX(前編)
公開日:2023.05.24
最終更新日:2023.06.16
※以下はビジネスチャンス2023年6月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。
パーパス経営で継承する「ロイヤルらしさ」
1950年に福岡県で設立したロイヤルホールディングス(福岡市博多区)。「日本で一番質の高い”食”&”ホスピタリティ”グループを目指す」をビジョンに掲げ、設立から70年以上にわたり日本の飲食産業の発展に寄与してきた。現在はグループで「ロイヤルホスト」や「天丼てんや(以下:てんや)」などの外食事業をはじめ、コントラクト事業、ホテル事業など、多角的なポートフォリオ経営を展開している。ポストコロナを迎えた今、菊地唯夫会長に外食産業の課題と対応、今後に向けての施策を聞いた。(聞き手:本誌編集長中村裕幸)
Profile きくち・ただお
1965年神奈川県横浜市生まれ。88年早稲田大学卒業後、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)入行。2000年ドイツ証券を経て、2004年ロイヤル(現ロイヤルホールディングス)入社。07年取締役総合企画部長。10年代表取締役社長、 16年代表取締役会長(兼)CEO。19年から現職。16年から2年間、日本フードサービス協会会長を務めた。20年より京都大学経営管理大学院特別教授。
ロイヤルグループは、外食事業、高速道路・空港施設などの飲食店を運営するコントラクト事業、ホテル事業、食品事業の大きく4つで事業を展開する。コロナ直後には各事業が大きな打撃を受けたが、直近では行動制限の緩和により需要が回復。22年12月期の連結売上高は1040億円と前年から約24%の大幅増収となった。
人流依存のポートフォリオを進化立ち寄り型から目的来店の店舗へ
--コロナ禍では外食産業全体で大きな打撃を受けました。ロイヤルさんのこの3年間を振り返ってみていかがでしたか。
菊地 我々のグループの特徴は、多角的な事業によるポートフォリオ経営です。外食産業は、低価格や高価格のブーム、ガソリン高騰でサービスエリアにお客さんがいなくなる、インバウンドが来なかったりなど、色々な波があります。この波を事業を組み合わせる事でなるべく軽減するというのがポートフォリオ経営の考え方でした。しかしコロナは我々が想定できなかった本当に大きな波だったので、ポートフォリがあまり機能しなかった。自粛があり、移動が途絶え、インバウンドは来なくなりました。すべての事業が人流に依存していたためコロナで全滅しました。
ただ前期からは持ち直してきており、足元では円安が進んだことでのインバウンドによって、ホテル事業などコロナの間に厳しかったところが逆に恩恵を被っています。ポストコロナを迎えて、やっぱり様々な事業があることが今は功を奏し始めています。
--今後もポートフォリオ経営は変わらない。
菊地 ただ、また人流が途絶えた時に同じようなインパクトを受けます。今あるポートフォリオは確かにこの回復過程の恩恵を被っていますが、元に戻すだけではなくて進化をさせていかなくてはいけません。
――進化に向けての取り組みとは。
菊地 3つぐらい方向性があると思います。1つ目は、ポートフォリオが人流に依存しているとしたら、依存していない事業を組み込むことでアップデートする。当社では冷凍ミールの「ロイヤルデリ」や「Lucky Rocky Chicken」といったブランドで、テイクアウトやデリバリーを強化しています。
2つ目は、各事業のレジリエンスを強めていく。我々の事業は立ち寄り型が多かった。どこかに行った時に泊まるホテル、高速道路で立ち寄るサービスエリア、海外に行く時に空港で食べる。どれも目的ではないですよね。やっぱり目的がないとお客様は来てくれないので、付加価値戦略で目的を持って来てもらう。3つ目は各々の事業をもっと結びつける。これはグループ間の共通ID化といったCRM戦略です。
--2つ目のレジリエンスですが、外食での付加価値はどこに見出していますか。
菊地 ロイヤルホストは昨年の月以降、コロナ前の2019年の売上水準を継続して超えてきました。ほかの外食に比べてもかなり早かったです。コロナで行動変容が起きてお客様がなかなか外食に行く機会がなくなってしまった中、回数が減った分、ちょっと良いところ、ちょっと美味しいものを食べに行こうとなった。そこに我々のサプライしている商品やQSCの部分が上手くマッチしたんだろうなと感じています。
--3つ目の共通IDは、アプリで連動させることでお客さんを囲い込み、単価を上げていくイメージですか。
菊地 単価と言うよりも、よりロイヤルグループの認知を高めていきます。外食産業はあまりマーケティングをやって来なかった。のぼりを立てて、口コミでお客様に広がっていきました。今後はより積極的にお客様にこちらからアクセスしないといけない。その武器がアプリなどです。ロイヤルホストやてんや、ホテルの個々のアプリを一緒にするのではなく、裏でお客様の情報を連動させ、カスタマイズした形でより良いサービスや商品を届けていくイメージです。
コロナ禍で一気にDXが浸透したが、同社ではコロナ前からキャシュレス決済やお掃除ロボットなど、テクノロジーを積極的に導入している。菊地会長は、DXがサービス産業の本質的な課題を緩和できるのではと考えており、そこには5つの論点があると話す。
外食・中食・内食の垣根なくなる顧客の時間と場所からの解放
--この3年間の話でいうと、外食産業自体でDX化が加速した点も挙げられますね。
菊地 これまでサービス産業はデジタル面であまり親和性がなかったのですが、それが初めて浸透し始めている時期になったと思います。ですから、より本質的にデジタルとサービス産業がどういうことを変えていくのかを考えた方がいいと思います。外食産業で今何が起きているかというと、今回のコロナによって、お客様のニーズが変化しました。外食・中食・内食で考えた時に、外食は受け身だった。しかしコロナ後は、外食がデリバリーやテイクアウト、EC販売などで一気に中食・内食に出ていき、入り乱れています。
--外食・中食・内食の垣根がどんどん無くなっていますね。
菊地 それによってお客様が好きな時間・場所・スタイルで食の選択をできるようになりました。今までレストランに時間をかけて移動しなければ食べられなかったものが、スマホ一つで家でも食べられるようになった。これは「時間と場所からの解放」だと思います。外食のプレイヤーたちは、来ていただいて初めてサービスとして提供していたものを、どうやってお客さんに届けるかに変化しました。たとえばデリバリーやテイクアウト、コンビニとのコラボレーションやフローズンミールの販売など、テクノロジーの進化によってリパッケージができるようになった。
--外食にはお店に来てもらうことに付加価値があるという考え方もあって、中食・内食に入っていくことに抵抗を感じる人も多いです。
菊地 そういう意識の人は当社でも多かったですね。だからコロナが起きた時に、他社はテイクアウトやデリバリーをバンバンやり始めたのに、当社はちょっと出遅れたんですよね。
--特にロイヤルさんと言ったらそういう考え方ですよね。
菊地 でもお客さんが時間と場所から解放されてしまったのだから、やらなきゃダメでしょというのが僕の考えた方だったんですよ。
--会長がずっと飲食畑でこられた方だったら、この考えになかなか至らなかったのではないでしょうか。
菊地 そうだと思います。私は金融業界から来たので、多分こういう発想になるんでしょうね。もう一つ、外食産業のビジネスモデルを考えた時に、結構繁閑の差があります。それを正社員とアルバイトとで調整しながらやっていましたが、コロナ前からの人手不足で、社員登用など固定化をみなさん進めていきました。決して悪いことではありませんが、変動費が固定費に変わり、損益分岐点が上がります。
これは結構大きな問題です。なぜならサービス産業には、ランチやディナー、週末やゴールデンウィークなど、必ず波があるからです。損益分岐点が上がるということは、当然黒字が出しにくくなる。
--そこを解決していくのがデジタルですね。会長はDXで5つの論点を挙げています。1つ目が今のお話に関連する「波の影響を緩和する」です。
菊地 我々の産業でよく聞くキーワードが、サブスクリプションやダイナミックプライシング、シェアリング。いずれもサプライサイドが波を調整する取り組みです。シェアリングは、ランチとディナーで違うプレイヤーがやることで固定費が下がります。サブスクは売上の固定化になり、波への対処ができます。
2つ目は、サービス産業の難しいところは、「サービスの提供と消費の同時性問題の緩和」です。お店に行ったら満員だった、食べたいものが売り切れだった、メニューと違ってちょっと焦げたものが出てきた。これらは同時性を求めているから起きることで、お客様にも従業員にとってもストレスがかかります。でもたとえば、プレオーダーや事前決済があったら売り切れは絶対にありえないし、調理機器がイノベーションをしたら、焼き過ぎもないですよね。
--確かにテクノロジーによって大きく緩和できます。
菊地 3つ目が「ロングテールビジネスの可能性」。マーケットはロングテールとマスマーケットの2つに分かれていて、外食はマスがターゲットでした。駅前の一等地で、たとえばヒンドゥー料理屋をやっても、マスがないからお客様が来ない。でもテイクアウトやデリバリーの店だったら二等地、三等地でもいい。高い固定費から解放されれば、宗教食や低アレルゲン、健康食などのロングテールにアクセスできます。
そして4つ目が、「顧客とのつながりの変化」。これは今までお客様との繋がりがお店の中だけだったのが、アプリなどで外でもお客様と繋がるようになり、販促もお客様の属性でアプローチすることが可能になった。最後が「スケールデメリットの緩和」ですが、お店が増えると再現性がなくなり質が落ちてしまう。しかしテクノロジーで支援すれば、その辺も下支えができるだろうし、陳腐化リスクをより軽減できます。
--御社ではコロナ前からテクノロジーの導入に積極的ですが、中にはためらう従業員の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
菊地 労働には、肉体、頭脳、感情の3つの形態があると言います。その中で感情労働が、接客などお客様の満足度を上げる人間にしかできない仕事です。現場ではみんなストレスを感じていますが、実は接客や調理にストレスを感じてる人はいない。何がストレスかと言うと、大体本部が報告書を出せとか、接客で忙しい時に電話をしてくると。であれば人は本源的な価値創出の感情労働に集中して、それ以外の棚卸しや発注、掃除にテクノロジーを使えば、人とテクノロジーがorじゃなくてwithに変わります。(後編に続く)
会社概要
会社名 ロイヤルホールディングス株式会社
設立 1950年4月
資本金 178億3013万8262円
売上高 1040億1500万円(22年12月期)
所在地 東京本部:東京都世田谷区 本社:福岡市博多区
事業内容 外食事業(ロイヤルホスト・天丼てんや・シズラー・シェーキーズ等)、コントラクト事業(空港・高速道路・ 百貨店内のレストラン&ショップ等)、ホテル事業(リッチモンドホテル)、食品事業
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