【連載特別編】高論卓説〜業界のキープレイヤーが語る〜(前編)

公開日:2023.10.25

最終更新日:2023.10.25

※以下はビジネスチャンス2023年10月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。

〝100年の競争優位〞を目指してこそホワイトフランチャイズ

 アクアが展開する「Build’s(以下:ビルズ)」は、ビルやマンションなどの日常清掃を行うFCで、加盟オーナーの売上保証をしていることが大きな特徴だ。現在は約350名のオーナーを率いるチェーンだが、同社が将来的に目指している「ホワイトフランチャイズ」について学びを得るべく、同言葉の生みの親であるワークマンの土屋哲雄専務を特別に招き、改めて両者にホワイトフランチャイズをテーマに語り合ってもらった。

加盟店ファーストを貫き、親から子に引き継がれる事業に

「Build’s(ビルズ)」 アクア(東京都新宿区) 金子 正裕社長(55)

PROFILE つのだ・じゅん
かねこ・まさひろ
1968年7月1日生まれ、東京都出身。1990年4月に株式会社武蔵野に入社。ダスキン事業、環境事業、オフィスコーヒー事業で事業責任者を歴任。2005年に株式会社アクアを設立し、代表取締役に就任。現在に至る。

 

 

 

「ワークマン」 ワークマン(東京都台東区) 土屋 哲雄専務(71)

PROFILE つちや・てつお
東京大学経済学部卒業後、三井物産入社。三井物産デジタル社長、三井情報取締役を経て2012年にワークマン入社。2019年専務取締役(現職)。WORKMAN Plusや#ワークマン女子など仕掛け、大ヒット。2022年からは東北大学客員教授も務める。代表的な著書に「ワークマン式『しない経営』」(2020年ダイヤモンド社)。

 

 

 

本部が営業開拓を実施 加盟オーナーの売上を保証

土屋 ワークマンは、ご夫婦での個人契約が加盟条件になっています。御社も個人を対象に清掃業を展開しており、売上保証などもされているそうですね。そこまでしているFC本部はなかなか珍しいと思いますが。
金子 当社は、「ビルズ」というブランドで、日常清掃のFCを東京、神奈川、埼玉の首都圏で展開しています。テナントビルの共用部分やクリニック、介護施設などの日常清掃業務を、加盟オーナーが行うというビジネスモデルです。
 おっしゃった売上保証の部分については、私たちは加盟していただく際に「月の売上がいくら欲しいか」を必ず確認します。そしてその希望の金額に合うように我々本部が営業開拓して、コース編成をするような形にしています。
土屋 御社はどうやってお客さまを開拓し、売上保証を実現しているのですか。
金子 当社は電話営業という非常に泥臭い営業をしています。ビルズは無店舗型の営業形態のため、黙ったままでお客様から問い合わせがくるものではありません。また清掃に対して、顕在的な問題を抱えているお客さまもほとんどいません。
 そのため、当社からお電話をさせていただき、「この一時間だけお掃除のことについて一緒に考えさせていただけませんか?」と場作りを提案します。そしてその後、実際に訪問し、「現在の清掃状況は点満点中何点ですか?」と伺うのです。すると大体のお客様から「7点」という回答が返ってきます。つまり、現在の掃除に困っているわけではないけど、特別満足しているわけでもないということです。そこで断片的な不満や問題を吸い上げ、ビルズの利用に繋げているのです。
土屋 潜在顧客層をキャッチするのは相当難しそうですね。もし加盟オーナーさんに紹介できるお客様がいない場合は、どうされているのですか。
金子 私たちはそうならないように、加盟オーナーの開拓数と仕事を取ってくる営業マンの数、需要と供給のバランスを取ることにとても気を付けています。ビルズに加盟する方の中には、ほかのFCで苦い経験をされた方もおり、売上保証について半信半疑な気持ちを抱いている場合もあります。そのため、最低限の約束事を必ず守ろうという意識を持って、営業開拓に臨んでいるのです。一定期間の間に希望される売上の通りにご紹介するようFC契約の書面にも記載していますし、私含めて社員みんながそれなりのプレッシャーを持って取り組んでいます
土屋 契約書にも記載されているとは素晴らしいですね。それはホワイトフランチャイズですね。ホワイト判定です(笑)。
金子 FC事業を始める際、加盟店との間でトラブルになりやすいことが何か調べました。すると圧倒的に多いのが、収益のシミュレーションと実際の数字にギャップがあることだったのです。そのため、ある程度の売上を提供できれば大きなトラブルになることはないだろうと、本部がそのリスクを持つことに決めました。
 現在は、100件電話して1〜1.5件繋がり、そのうち7割でアポが取れ、最終的に契約いただけるのがその3割と、ある程度の方程式が成り立ってきました。営業社員は口から血が出る思いをしながら頑張ってくれています(笑)。

本部と加盟店は運命共同体 加盟オーナーの採用基準は人柄

土屋 加盟店側にリスクが少ないというのは一番の理想ですね。本部がそれくらいリスクを取らないとダメです。営業の方は大変でしょうけど、電話営業でその成約率はすごいことです。しかし、100件掛けて99件断れるというのはやはりとても辛いもの。それをちゃんとやり切れるのは、利己的な力じゃなくて、加盟店のためにといった利他的な力があるからでしょうね。
金子 おっしゃる通り、私どものビジネスで重要なことはお掃除のノウハウはもちろんですが、それ以上にこの泥臭い営業をやり切れることなんです。ただ売上ばかりに走ってしまっては、営業社員が疲弊してしまうので、「我々の仕事のミッションやバリューとは何か」ということを定期的に懇談する場を設けるようにしています。社員はあまり気付いていないと思いますが、私たち経営側は、そういう社風や文化を作ることを意識しています。こうした利他の考え方がないと、良い社員ほど辞めてしまいますから。
土屋 私たちも加盟店のためにという想いが大前提にあります。特に当社のSVはその気持ちが強く、社員というより加盟店の回し者みたいなんです(笑)。新しい場所に出店をしようとすると、「他の店舗の売上が下がるから、こんなところに出しちゃダメだ」と文句を言ってきますから、完全に加盟店側の人間ですよ。
 私たち本部と加盟店の関係はまさに一蓮托生。本部には加盟店の粗利の6割が分配されるといった運命共同体。ですから、性格の良い加盟店としか組みたくない。私たちの加盟店採用基準が人柄という点も、そこから来ています。
金子 加盟オーナーの人柄判断とは、やはり感覚的なものなのでしょうか。
土屋 私はすぐ言葉に騙されて人を見る目がないので、そこに関わらないようにしています(笑)。でも面談の担当者は、利他的な考えができるかどうかを重視して採用してくれていますね。考えは言動ににじみ出るため、そこを判断してくれているようです。我々がひどい人を採れば社員みんなが疲弊するため、「とにかく良い人しか入れるな」と、それだけは徹底しています。
 また、ワークマンには「ガツガツ売り上げよう」という人は合いません。一応、目先の売上目標値はありますが、月末になって数字が足りていなくても、「今月ダメだったら来月頑張ってください」というスタンス。ですから他のフランチャイズなどで過剰なノルマを達成するためにあくせく働いて頑張ってきたような人は、うちの空気に違和感を覚えるようです。
 私たちが売上にこだわらないのは、売上が高すぎる店舗はお客さまの満足度が下がるという理由もあります。年間売上が1億8000万円を超える店舗は、駐車場がいつ行っても空いてない状態で、満足度が下がってしまうのです。ですから、私たちは売上を上げてもらうより、店のコンディションを維持してもらいたいと考えています。
 個人的には、年間売上1億5000万円くらいの店舗が一番ちょうどいいと感じています。そしてあまりガツガツしないで、残業なしで年収1000〜1200万円を稼ごうという人が、ワークマンには合うのです。

高論卓説〜業界のキープレイヤーが語る〜特別編(後編はこちら)

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