【セレクトホテルズグループ】全国展開のホテルグループがFCビジネスに参入(前編)
公開日:2025.12.22
最終更新日:2025.12.09
※以下はビジネスチャンス2025年12月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。
「セレクトホテルズグループ」として全国にホテル50店舗を構えるのがエフ・イー・ティーシステムだ。今から20年前、コンサルタントとして事業再生の側面からホテル事業に参入したが、次第に自社ホテルを展開して事業を拡大してきた。その同社が2022年にFCビジネスに参入した。ホテル事業を順調に進める中、グループ会社に日本全食を設立し、フランチャイジーとして飲食系のFCブランドに加盟している。「新時代」、「しんぱち食堂」、「魁力屋」、「カフェ・ベローチェ」など6ブランドで16店舗をすでに展開。将来的には直営業態も含めて200店舗の展開を計画している。目下、本業のホテル事業だけでなく外食FCのメガジーとしても急成長中だ。

ザ・セレクトンなど4ブランドのホテルを全国展開している
日本の食文化を広げることを使命に6ブランド16店舗展開
セレクトホテルズグループは、2005年に設立し今年で20周年を迎えたホテルグループだ。4種のホテルブランドを全国に50店舗展開し、2025年の売上予想は147億円。グループ会社であり飲食系フランチャイジーの日本全食においても、FC加盟6ブランドで16店舗に加え、オリジナルブランド2店舗を展開し、今期の売上は12億円を達成する見込みだ。その順調な事業展開を見せる中村社長のルーツには、仕事の全てをたたきこまれた“もう1人の父”の存在があったという。
父の言葉が人生の転機に 学生時から経営に携わる
中村社長の父親は映画監督の中村州志氏だ。「美術の才能が無い」という父の言葉をきっかけに、自分の生き方を考えるようになったという。中村社長がわずか小学3年生の時だった。
中学生の時に将来の自分の仕事を模索するため、日本全国の資格が載った本を買い1冊丸暗記した。そのおかげで全国の仕事内容や所得などを理解し、仕事に対する造詣を深め、父の仕事である映画監督についても深堀りできた。
「父の仕事は2時間の中で人生を表現し、人の感情を揺さぶる、すごい創造文化だと気づきました。0から作り上げるクリエイターなわけですが、自分ができないのならば、土俵を変える。仕事に関しては小さい頃から勉強してきたので、会社であれば自分にもできるのではと考えたわけです」(中村比呂志社長)
中村社長の経営者としてのスタートは大学在学中に起業したことから始まる。制作したアクセサリーをショップに卸す仕事をしていた。売上が200万円に達する月もあったが、20万円ほどに落ちる月もあり安定しなかったという。銀行からの借り入れをできなかった点も経営の不安定さを感じた。
そこで大きな組織の中経営を学ぼうと入社したのが地元埼玉県の大手企業・島忠だ。家具インテリアの小売業を手掛ける同社に経営企画や総務を希望して入社した。だが、中村社長は入社直後から販売や店舗経営を経験する中で手腕を発揮した。販売において好成績を残したため、継続した営業部の所属を命じられたという。それでは中村社長の希望とは異なるため転職を決意。ヘッドハンティングのような形で、今度は中堅の水道管の製造メーカーに入社した。この会社は、かつて新日本製鐵などと取引がある企業だった。官需産業の業態であったことから、公人や政治家との出会いが多く、さまざまな経験を得られたという。また、役割も多岐に渡り、特許や販売戦略、店舗の出店、営業所や支店網、工場や製造ラインなど仕組み作りなど、会社全体の統括業務をこなしていた。
この時の社長が中村社長が「2人目の父」と呼ぶ、恩人となる人だった。
「仕事はとにかくハードでした。しかし社長からは私を秘書のように使っていただき、日本全国を一緒に回りながらビジネスというものを叩き込まれ、多くの事を学ぶことができました。『仕事の間は俺の事を父と思え』と言ってくださり、おかげで今の私があり感謝しています」(中村社長)
毎朝、役員の出社前に山のようにある稟議書を全てチェックし、課題の対応や役員への報告などを行っていた。会社全体の動きを把握していたことで、社長と同じ頭を作ることができたのだ。

いやし処ほてる寛楽、秋田川反店の入口
事業再生から参入したホテル事業、海外出店も視野に
2005年にエフ・イー・ティーシステムを設立した中村社長は、ホテル事業を本格的に開始した。現在、同社は全国で50拠点を運営する。創業時から「最低50拠点を展開する」と宣言していたとおり、その目標を現実のものとした。ホテルの主な事業には宿泊部門、レストランやルームサービスなどの飲食部門、婚礼や企業会議、イベントなどの宴会・バンケット部門がある。しかし、2000年代以降、事業の柱のひとつである宴会・バンケット部門に大きな動きがあったという。
知人の支援からホテル事業参入 第1号ホテルを客室稼働率85%に
ホテル事業を携わるきっかけはあるテレビ番組の放送だ。中村社長は、水道管メーカで15年ほど勤めた後、2003年にコンサルタントとして独立した。そんなある時、業務を手掛ける中で、コンサルタント仲間からホテルの事業再生の話が回ってきた。
「知り合いの方が『ガイアの夜明け』に出演したところ、全国のホテルから再建の依頼が100件以上届いたそうです。ただ、その方はホテルの価格調査やバイアウトがメイン業務で運営業務はしていなかった。そこで私に『経営してもらえないか』と相談が来ました。『これは支援しなければ』と思い、始めたのがホテル業でした」(中村社長)
その縁から手掛けた第1号は長野プラザホテルの事業再生だ。同ホテルは当時、月商150万円ほどに対して賃料が250万円かかって毎月大赤字を出していたという。
中村社長はホテルを立て直すためにまず、その地域に26あるホテルの弱みと強みを分析し点数化した。算出した点数をそれぞれ価格に置き換え、価格設定の参考にしたのだ。そして、音漏れや水回り、壁紙といった細部の改善を積み重ね、当時はまだ導入の少なかったウォシュレットの新設も実施。また、朝食は中村社長自らメニューを考案し、利用客からアンケートを取ってブラッシュアップした。その結果、客室稼働率がわずか20%だった同ホテルを半年後には85%に、朝食の喫食率を80%に伸ばすことに成功した。
「その地域のホテルを分析し、弱み強みをはっきりさせることで、そこから勝てるパターンを作り出しました。このときの経験を今のホテルにも応用しています」(中村社長)

ホテル事業1号店の長野プラザホテル
海外構想と多様化の必要性 外資系ホテルのシェア争い
中村社長は、2005年にエフ・イー・ティーシステムを設立、本格的にホテル事業を開始した。現在展開している50店舗のうち35店舗は事業再生により展開しており、設立当初は自社ホテルの建設はしていなかった。投資者から集めた資金で不動産を購入するリートのシステムが、日本にはまだ無かったためだ。ホテルを買って事業化するには銀行借り入れしかなく、事業再生を中心に力を入れていた。
現在は、市場が整備されリートの普及や金融の変化があり、新築による新店舗の展開を行っている。同社は今後のホテル展開として海外への出店を検討している。ポーランドやインドネシア、中国など、海外にはまだ個人経営のホテルが数多くあり、品質管理が十分でない地域も多い。そこに日本で展開されているような一定水準のサービス品質を保ったホテルモデルを持ち込めば、競争力を発揮できると分析している。ただ、質が高くても同じものを大量に展開するだけでは、この先の戦略的には厳しいと中村社長は話す。
「利用客の声を聴くと日本のホテルはどこに行っても同じでつまらないというものがありました。特に外国人客からそういった意見を聞きます。コロナ前までは中国にマーケットを向けていた外資系ホテルが、コロナ後に方針を変えて日本で多ブランド展開するようになってきています。このままいけば10年後にはどこかの外資系ホテルが日本で1位になっていると思いますよ」(中村社長)
中村社長は、日本市場にも外資系ホテルの進出が進み、今後のシェア争いが激しくなると考えている。そんな中で同社が展開するブランド「セレクトイン」は、全国平均稼働率85%を維持している。アパホテルやスーパーホテルが9割を超えるのに比べれば控えめだが、安定した集客を実現している。ただ、中村社長は稼働率よりも「顧客満足」を重視するという。地方では単一ブランドの展開に利用客の「飽き」が来ているというのだ。
今後は地域ごとに特性を活かした複数ブランド戦略が重要だと話す。同社においても「ザ・セレクトン」「いやし処ほてる寛楽」「ホテルセレクトイン」「シティbyセレクト」といった4ブランドを抱え、客層や地域ごとに最適なサービスを提供していく。

同エリアのホテルを分析し、長野プラザホテルの改善に繋げた
ビジネス進行が組織から個人に 宴会・バンケット部門の打撃
宴会やバンケットはホテル事業において重要な部門だが、1980年代のアメリカではすでにその文化がなくなっていた。20年遅れて2000年代頃より、日本でも宴会需要は減少傾向にあった。その背景には社会の構造変化がある。ビジネスにおいて、かつては全体主義的な組織体系で進行されていたが、パソコンの普及にともない個人ワークを重視するようになった。それにより、大人数での宴会や集団的な飲み会は減り、人が集まる機会は激減したという。そうしてホテルが「集まる場」ではなくなったのだと中村社長は分析している。
この対策のため、バンケットよりも宿泊サービスや朝食の充実を図ってきた同社だが、宴会需要の減少に加え、新型コロナウイルスの流行により、本格的に宴会・バンケット部門に大きな打撃を受けたという。そこで、同じ飲食事業でもバンケットに代わる新事業として注目したのが、FC加盟による外食店舗の経営だった。
セレクトホテルズグループ
エフ・イー・ティーシステム
(東京都千代田区)
中村 比呂志社長(63)
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