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【連載 第3回目】外食のプロ経営者が伝授する労務管理 虎の巻

公開日:2025.07.30

最終更新日:2025.07.31

※以下はビジネスチャンス2025年8月号から抜粋した記事で、内容は掲載時の情報です。

コスト管理の徹底が経営のカギ

飲食店経営者が知っておきたい「標準原価」の考え方

 コロナ禍が明け、2024年の訪日旅客数は過去最高を記録した。しかし、飲食業界は今も試練の中にいる。当連載では、外食FCに長きに渡り携わってきた安田隆之社長が、現場の「気づき」から得たノウハウを綴っていく。

「標準原価」とは

 皆さんは「標準原価」という言葉を知っていますか?飲食業で「原価」とは、ざっくりと「仕入れ額」のことをいいますが、ここでいう「標準原価」とは、単なる「仕入れ額」ではなく、製造業において製造時に目標とすべき原価のことを指します。製品ごとの原材料の使用量や価格、従業員の人件費などの労務費、そして製品を作る際にかかる家賃や水道光熱費などの間接費を全て織り込んで計算します。
 例えば、こんなふうに考えるとわかりやすいかもしれません。皆さんのお店が一種類だけのメニューをお客様に販売していると仮定してみてください。お店の売上はその一品の売上が集まった積み上げになります。その商品が1000円だとすると、1000個売れば売上が100万円になるということですね。
 言いかえると、お店の売上のPL構成要素とは、すべてその商品のPL構成要素と同じだと考えるわけです。1000円の商品の中に、お店のPLの100万円の構成要素がそっくりそのまま反映されているのです。

標準原価の計算と実践の難しさ

 ところが、飲食業ではこのようなアプローチを採っているケースはあまり見聞きしません。私が知る限り、このような考え方を採用しているのは、マクドナルドとサイゼリヤだけです。
 その理由として、実際の飲食店では多品種のメニューを提供していますし、調理の現場では現場スタッフの裁量といえば聞こえは良いですが、いくらマニュアル化を進めても調理プロセスでの属人的な差が大きいからだと思います。
 私の店ではコーヒーを提供していますが、コーヒー1杯の標準的な分量は160ccとしています。もし仮に、お猪口半分量でも多めに提供してしまえば、それだけで原価があっという間に10%増えてしまいます。
 また、調理工程にかかる時間や時間給の算定も難しいです。
 ですから、ほとんどの飲食業では、商品ごとの標準原価を計算することを諦めてしまって、メニューごとのPL ではなく、皆さまおなじみの原価率、労務比率、水道光熱費率という、店舗PL単位でのコスト管理になっているように思います。もしかすると、飲食業ではデフォルトの考え方となっているのかもしれません。

商品単位のPL意識を持つことの重要性

 だからといって、この考え方を最初から放棄してしまうのはもったいない。大きなメニューや商品グループに分けて、ざっくりとでも良いので大きめの括りのグループ、例えばドリンク類、酒類、スナック類、デザート類……などの標準原価を出す作業をやってみる価値はあると思います。
 その過程で、原価率の高い商品群、利益率の高い商品群、労務費が多めの商品群、標準原価と実際原価の差が大きい商品群など、さまざまな発見があるはずです。試行錯誤しながらでも、商品単位のPLの積み上げが店舗PLになるという意識を従業員が持つことで、販売に力を入れたい商品群や新規の商品設計にも役立つのではないでしょうか。
 消費者の財布の紐は確実に固くなっています。会社を健全に経営していくためには、きちんと売上を作っていくことも大事ですが、こんな環境だからこそ、コストをしっかりと管理していくことの重要性を無視することはできません。

Profile Kissaco 安田 隆之社長(64)
1960年生まれ。86年3月、中央大学大学院法学研究科修士課程修了。同年4月にモービル石油株式会社入社。2005年、日本マクドナルドホールディングス入社。08年に同社取締役管理部門統括上席執行役員に就任。11年に同社を退職し、株式会社コメダの代表執行役社長に就任。13年に株式会社Kissaco設立、代表取締役社長に就任。

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