大廃業時代に立ち向かう、M&Aに次ぐ新しい事業承継の形

サーチファンドを活用し「新しい買い手」の発掘と育成を促進/Growthix Capital


Growthix Capital

東京都中央区

河本和真取締役CFO(32歳)

(一社)ネクストプレナー協会代表理事


日本の企業数421万社のうち99.7%を占める中小企業は後継者不足が深刻化しており、2025年には大廃業時代を迎えると言われている。こうした問題を解決すべく、近年ではM&Aや事業承継の流れが急激に加速しているが、その中でも「サーチファンド」といった新たな形態を活用した事業承継の形が注目されている。M&A仲介を主業とするGrowthix Capitalでは、2019年からサーチファンドによる中小企業の後継者不足問題に取り組んできた。まだ日本では聞き慣れないサーチファンドの仕組みや活動内容について、同社の河本和真取締役に話を聞いた。

(ビジネスチャンス10月号「100年企業を作る事業継承のススメpart2」より)



河本和真取締役CFO(32歳)

PROFILE かわもと・かずま

2014年、北海道大学経済学研究科会計情報専攻修士課程卒業。2014年、野村證券株式会社入社。2017年、テック系M&Aアドバイザリーに参画。2019年より、Growthix Capital株式会社の創業メンバーに参画し、事業再生案件やクロスボーダー案件等幅広いディールを手掛ける。2020年より一般社団法人ネクストプレナー協会代表理事に就任。


「新しい買い手を作る」中小企業の後継者不足問題に新たな手法を


―現在、国内の127万社が後継者問題に直面していると言われており、事業承継を中心としたM&Aの動きが加速しています。足下の状況はどのようなものでしょうか。

河本 直近では年間4000件のM&A案件が成立していると言われています。ただこの4000件の内、中小企業の後継者不在問題に焦点を当てたM&A案件はわずか616件 (2019年時点)で、残りの約3400件はストロングバイヤー(特定の企業)による複数企業の買収であったり、上場企業の組織再編やI n-out、Out-inなどのクロ スボーダー案件がほとんどです。そもそも後継者の不在で頭を抱える企業数が127万社ある中では、この616件という数字はあきらかに母数に対して供給量が不足していると いう状態です。そこで考えたのが、母数に対する供給量が足りないのであれば、「自ら新たな買い手を作っていこう」というものです。サーチファンドというモデルを知ったのも、ちょうどそんな時でした。


―サーチファンドの仕組みとは。

河本 プライベートエクイティ(未公開株式)投資の一つで、1984年にアメリカスタンフォード大学の学生が実施した手法が最初だと言われています。起業する資金の無い若者 が投資家に自身を売り込み、投資資金を確保して対象会社の経営権を取得し、会社の企業価値を向上させていくというものです。

実際の流れとしては、まずサーチャー(経営者を志す人)が投資家に対しプレゼンを行い、サーチ費用 (活動資金)を捻出してもらいます。


サーチ期間と費用はまちまちですが、2年間で2000万円程度を投資してもらうケースが多いですね。そしてサーチャーと買収先の企業である程度話が合意に近づいた段階で、再度投資家に対して買収費用の出資交渉を行います。出資が成立した後は、投資家と共同でSPC(特別目的会社)を作り、そこに投資家が出資するという流れになります。その際、サーチャーに対してもモチベーションを持たせるために5〜20%の株式を無償譲渡する、またはストックオプションを付与する形が一般的です。最終的にはサーチャーが事業を拡大して企業価値を向上させた後、IPOやバイアウトをして利益を得ることを目指していきます。



最初のサーチファンド案件に失敗

実体験を通して知るM&Aの厳しさ



―御社では、2019年から本格的にサーチファンドモデルに着手したと伺っています。

河本 保育園経営をしていた知人から、体調不良のため事業譲渡したいという相談を受けていました。この保育園の年商は1億円ほどで、利益は約1200万円。譲渡価格にすると6000万円ほどの案件でした。最初は自社で通常のM&A案件として取り組んでいましたが、事業の規模感がサーチファンドモデルとしてちょうど良く、また知人で幼児教育に興味のある方がいたので、その方をサーチャーとしてスタートしました。


ただ実際に始めてみると、想定していたより運営は遥かに難しかったです。この案件は昨年の4月にサーチャーが保育園の代表取締役に就任しました。しかしちょうどそのタイミングでコロナに見舞われ、保育園の営業時間短縮や在宅勤務の方が増えたことで園児の数も減り、想定していた売上と利益が出せず資金繰りも厳しくなってしまいました。加えて以前の代表のもと、既に出来上がっていた組織の中に新しい経営者が飛び込んできて体制が変化したことで従業員との間に軋轢が生じたり、保護者からも苦情が相次ぐようになりました。


―結果的にその後の経営は河本取締役が引き継ぎ、現在も代表として運営を続けられています。この経験を踏まえて何を感じましたか。

河本 今回の失敗の原因としては、やはり従業員や利用者への説明不足が大きな要因だったと感じています。一般的な大手のM&Aでは従業員や取引先(利用者)への説明が最後になりますが、サーチファンドは大手企業ではなく、個人が経営に参画する訳です。ですから一般的な方法をなぞっただけの統合では、上手くいきません。また従業員や保護者からヒアリングするなどを行わず、現場の意見を反映していなかった経営方針も失敗の要因だと分析しています。



学歴やキャリアに囚われない大廃業時代に立ち向かう人材の育成



―ご自身の経験も踏まえ、サーチ ャーを育成するための「ネクストプレナー協会」を立ち上げたのが昨年9月です。協会では具体的にどのようなことを教えているのでしょうか


河本 基礎知識の学習を行う特別講義や実地研修などがありますが、協会の特徴として実際のマッチングから事業承継までも受講期間の6カ月間で一貫して行います。昨年11月からの0期生は12名が受講し、卒業後も5名がサーチャーとして事業承継を検討しています。また6月からの1期生は東京校と大阪校でそれぞれ20名ずつ入会するなど、徐々にですが手ごたえを感じています。


―先行してサーチファンド事業を行う企業は2社ありますが、どのような違いがあるのでしょうか。

河本 先行されているJaSFAさんやサーチファンド・ジャパンさんと当協会では、それぞれ微妙にレイヤーが違うと認識しています。JaSFAさんはアメリカ式のモデルを実 現しており、優秀なMBA生をプロ経営者として送り、ユニクロやアマゾンのような大企業を作っていくという方向性です。案件としても、主に提携している山口フィナンシャルグループの証券エリア内の案件を取り扱っています。サーチファンド・ジャパンさんもある程度学歴やキャリアのある方を募集しており、日本M&Aセンターと提携して案件をセットアップしています。

一方で、当協会は学歴やキャリアに関係なく募集しており、後継者不在問題を抱える企業の案件を集中的に取り扱います。学歴やキャリアを求めない理由は、中小企業の経営者と対峙する上で必要なのは学歴やキャリアではなく、人間性や人となりであると我々は考えているからです。また他社と大きく違う点としては、我々はサーチャーをネクストプレナーと呼び、育成するところからスタートしている点です。実地研修も行い、後継者不足問題という社会課題に対し、自主性を持って取り組めるような環境を用意しています。


大廃業時代に立ち向かっていくという当社のコンセプトは創業から変わりありません。売り手側に立ち、ネクストプレナーが確実に事業を引き継げるモデルを確率していくことが何よりも大切だと考えています。まだ発足したばかりですが、様々な企業と協力・連携しながら、この社会課題に取り組んでいきたいと思っています。

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