【後編】 土地・建物のグループ資産活かし出店を加速/glob

創業9年で年商100億円を突破


―想定する10年後を考えた時、新しい事業をやっておかなければならないことだけははっきりしている― 2010年当時、まだスーツの販売が堅調だった青山商事の幹部間では、漠然としながらも確かな不安が蔓延していた。「スーツはいずれ売れなくなる。ではそのために一本足から脱却して、複数の事業をやらざるを得ない」。そんな至上命令を受けて2011年に作られた会社がglobだった。

glob

広島県福山市

古市誉富社長(60)



古市誉富社長(60)


「洋服の青山」や「THESUITCOMPANY」を始め、数々のブランドでビジネスウェアの販売を行う青山商事。現在、グループで同社以外に28の企業があり、その中の1社であるglobは「焼肉きんぐ」や「ゆず庵」、「エニタイムフィットネス」や「セカンドストリート」の4ブランドで店舗を運営するメガフランチャイジーだ。同社は創業時に掲げた「10年で売上100億円」の目標を1年前倒しで達成。そしてその加速を牽引したのが、〝遊休地活用〞。紳士服専門店として保有していた圧倒的な資産を起爆剤として活用し、出店に繋げていった。


 

――物語コーポレーションと青山商事は何か特別な繋がりがあったのでしょうか。

古市 そういう訳ではありませんがただ当時、社内でどの会社と組むのかという話になった時に、物語という会社が素晴らしいという話になったのです。小林さん(※小林佳雄元会長)や当時の役員の方々とか、トップにいらっしゃる方の人柄が非常に良く、彼らの理念やビジョンなどにすごく賛同して選んだと聞いています。


――ビジネスモデルありきで選んだわけではないと。

古市 むしろその当時は色んな選択肢があり、その中で「物語コーポレーションとやりたいよね」という話になった。実は私は、globの社長になる前は青山商事のブロック長という立場で、苦戦しているブロック店の立て直しを行っていました。その際、福岡市の千早にある物語さんの店舗を当社が貸していた関係で、物語の開発の方と当社の開発は仲が非常に良いということも聞いていました。そういった意味では、開発部署がキーとなってスタートした事業と言っても間違いありません。


――物語コーポレーションでは、焼肉、ラーメン、しゃぶしゃぶ、お好み焼きの4業態をFC展開していますが、ブランドの選定はどのようにして行っていったのですか。

古市 当時、物語さんの業態は敷地の面積を優先していたので、私たちの余剰地にどの業態だったら入ることができるかという考え方で絵を描いていました。そしてその上で、小林会長に話を聞きに行ったのです。


――小林会長は何と。

古市 小林さんの意見は、「とりあえず焼肉だけにしておいた方が絶対にいいぞ」と。「俺らもイチ押しは焼肉だから、あとは分からん」と(笑)。当時はまだ焼肉きんぐが出始めで良くなってきていることもあり、物語としては主力の業態としてこの焼肉をやっていくという方針がはっきりしていました。そこで当初考えていた複数ブランドでの展開を一旦白紙にし、焼肉きんぐからのスタートにしたのです。


 

焼肉きんぐの1号店目は、福岡市の千早店。前述の青山商事が貸主として物語コーポレーションに貸し出し、同社が直営店として運営していた店舗だ。この土地には洋服の青山とコンビニエンスストア、カラオケ店と焼肉きんぐの4店複合立地で地主も複数存在していたが、メーンの地主は青山商事。このように、同社では自社の所有地にフランチャイズブランドを誘致するケースも多く、フード業態に関しては3割超が自前の土地の有効活用だ。

 

自社所有地にある直営店を譲受

人材派遣してもらい3年で黒字化



――焼肉きんぐは初年度にいきなり7店舗を出店していますが、1号店は古市社長も紳士服時代からよく知っていた千早店ですね。

古市 千早店は以前から私も何度か食事させてもらっていた店舗だったので、何となく状況は分かっていました。


――直営店で売上が付いている上、地の利があったこともあり、立ち上げはスムーズにいった。

古市 そうですね、随分助けていただきました。私たちにとってお店を譲渡してもらう経験はありませんでしたが、物語さんも多分初めてだったと思います。ただ物語さんは他社から来られたプロの方が一杯いてそういうことも皆さん経験されていたので、安心してスタートできました。


――2年目も2店舗出店しています。

古市 2年で9店舗を出店しましたが、その時点でしっかりと想定した利益が見えないと先はないと感じていました。ですから私の気持ちの中では、一旦そこで出店を止めるようなイメージでした。


――実際、当時の数字はどうだったのですか。

古市 開店初年度は諸経費が掛かったこともあり、1店舗アベレージで年間1500万円くらいの赤字でした。ただそんな状況下でありながら、物語さんは部長クラスの人材を1年間派遣してくれました。で、その方と一緒になって売上不振の場合の対策などについての議論をしたり、一方で私たち洋服の青山が持っているノウハウもぶつけました。そんな感じで1年が経つと、何となく分かり始めてくる。確かに逆風のスタートではありましたが、お客様も増え、3年目の時には全店黒字化を達成しました。


 

法人フランチャイジーの場合、自社のお膝元でドミナント出店をしたがる企業が多い。なぜなら、地元であれば商慣習も分かるし、社員の採用や管理も比較的容易であるからだ。一方青山商事の場合は、全国津々浦々に店舗網があり、業態違えどグループ社員が各エリアで働いている。同社の出店が加速できたのは、このような飛び地での出店も可能な体制があったためだ。

 

全国展開のノウハウ共有

飛び地出店も攻略



――2015年に2つ目のブランドである「ゆず庵」に加盟されています。こちらも物語コーポレーションさんが展開するブランドですが、焼肉きんぐの増店ではなく新ブランドにした理由は。

古市 焼肉きんぐでの出店を重ねていくうちに、私たちが持っている余剰地や有効地、優良地周辺にすでに焼肉きんぐがあるという状況が出始めてきたのです。ゆず庵自体は、ちょうどその頃本部で本格的に立ち上げる感じだったので、売上や状況などを聞いたり新店ができれば全部回って食事していました。


――2015年に1号店を出店していますが、今度は東に行って甲府です(笑)。普通であれば本社のある広島はまだしも、せめて中国地方で出店するのが定石だと思いますが。

古市 実はこの甲府国母店も、焼肉きんぐの千早店と同様に買い取らせていただいた店舗です。元々自社の土地に洋服の青山だけを置いていて、あと3業態くらい出せる土地があった。そこで本部さんと相談して、まずは直営店として一旦出していただいて。そしてその後の良く売れる姿を間近で見ていたので、やらせてほしいと。


――自社の遊休地内に出店できるというのは、ある意味誰も荒らしていないエリアにスムーズに入っていけるとも言えます。ただその一方で、その土地ならではの商圏を把握するのが難しいのでは。

古市 もちろん自分の出身県以外だと、土地柄とか何が売れるかなどはやっぱり分かりづらい部分があります。ただ当時よく言われていたのは、青山は800店舗を超えており、元々日本全国でドミナントになっている。むしろ青山は全国津々浦々に出ているので、全国の知識・知恵・経験を持った開発もいる訳で、その地区で物件が出たらどこがいいのかということが必然的に分かるのです。


 

物語コーポレーションとの二人三脚でフード業態の出店を重ねてきたglobだが、近年は更なる事業拡大に向けて異業種への参入も積極化させている。19年にフィットネス業態の「エニタイムフィットネス」、そして昨年にはリユース事業の「セカンドストリート」に加盟し、現在それぞれ6店舗・店舗を出店する。ただ異業種であっても同社のブランド選定基準は明確だ。それは既存の紳士服店に「併設」「転換」できるという基準で選ばれていた。

 

「土地」の次は「店舗」の活用

3年の歳月かけ新業態に参入



――近年は非飲食業態での出店も多いですが、その理由は。

古市 もちろん、それぞれのブランド自体の魅力も十分考慮していますが、立地に関してはこれまでのフード業態と大きく異なる基準がありました。


――具体的には。

古市 例えば焼肉きんぐの場合は、イメージとして平均売り場面積が190坪ほどで駐車場が80台ほど収容できるところを目がけて店を建てます。焼肉の場合はにおいの問題もあり、既存の洋服の青山と隣接させることが難しい。台というのはちょっと間隔も空けて出せるスペースです。それに対して、エニタイムやセカンドストリートは極端な話、青山を真っ二つに割って店を入れることができるのです。実際エニタイムは、現在出店している6店舗うち5店舗が併設となっていますし、セカンドストリートについては、原則青山の移転で空いた物件となっています。


――既存店舗の有効活用だと。

古市 これまでのフードビジネスは青山の「敷地」を使うものだったんです。ただ今度は青山の敷地ではなくて、「店」を上手く使う。青山の売場面積は150坪が平均ですが、200とか250、300坪の店もある訳です。それが時代とともにスーツが売れなくなって、この坪数が要らない訳です。それを間仕切って他社に貸すよりも、グループで完結した方がやりやすい。当時はそのような視点で考えていました。


――立地条件以外で「エニタイム」に目を付けた理由は。

古市 フィットネスの日本における入会率がまだまだ低いことは知っていたので、今後は伸びていくかもしれないという興味は持っていました。当社が検討し始めたのはスタートする3年前ぐらいからです。当時、地元の福山で郊外型の一号店を見かけたこともあり、話を聞きに行ったのです。ただ当時、郊外型の業績が全然ダメで、福山店もまだ全然だと。「僕たちは郊外に土地とか建物があって、そこでやれる可能性ってどうですか」と聞いたのですが、「郊外は自信もないし、多分難しい。利益の出ている都心型のビルインでしか今のところ想像できない」と言われてしまいました。


――エニタイムの出店はちょうどその頃から急拡大していったかと思います。気持ち時期が早かったのかもしれませんね。

古市 その後もずっと横目で見ながら本当にできないのかとは思っていました。結局フードの時もそうだったのですが、やはり開発部隊が基軸になるのです。当社の開発部隊に聞くと、あちこちでエニタイムの出店責任者に会うと言う。そこから次第に私たちの開発とも仲良くしてもらえるようになって、色んな生の情報が入ってくるようになったのです。そうして話をしていくうちに、「これはもうやれるんじゃないか」と。


――紳士服とフィットネス、業態は異なりますが、来店者のペルソナとしてはほぼ同じかと思います。そういった点でシナジーは感じますか。

古市 エニタイムの会員は〜代の男性が8割を占めるので、そういった意味ではどストライク。ただ実際にお客様同士がどこまで相互来店してくれるかというと、そこは未だに結論は出ていません。もちろん、マイナスには全くならない。じゃあ逆にプラスにどこまでなるかというのは、多分これから先。今は同じ賃料でも収益性の高いブランドが入ることでその分利益が上乗せされるという、損益上のメリットを享受している段階です。



 

青山商事では2019〜21年度の3年間で既存の洋服の青山を中心に約160店舗閉店し、業績も黒字転換を果たした。これはもちろんプラスのことだが、一方で既存店舗を目掛けて出店攻勢をかけてきたglobにとっては、出店のパイが減少していることも意味する。年商100億円の大台を突破した同社だが、むしろ正念場はこれからだ。古市社長は今後の業態選びのカギに「人」の存在を挙げる。

 

一番の武器は接客

サービス社員の半数が洋服経験者



――この10年で急成長を果たした御社ですが、今後の中長期的な経営方針は当然親会社である青山商事とリンクしてくると思います。遊休地といった資産の活用でいくのか。それともトレンドや業態をもとに選定していくのか。どの様にお考えですか。

古市 どちらもあると思いますが、原則は参入障壁が高い、焼肉きんぐやゆず庵、セカンドストリートのような大箱の業態です。これらは出店したからと言っても、その後の拡大戦略は簡単ではないと思うんですね。なぜならフランチャイズの場合、本部から与えられるとか、取引先の決まった食材を加工しても、そんなに差は出ないんですね。そうなると結局差別化になるとしたら、人なんです。僕たちが青山で習ってきた一番大事な武器は接客サービスですから。実際、当社の社員は青山商事からの出向も含め213名(22年3月末時点)いますが、その内約半数が洋服の青山の経験者です。


――青山商事グループ内での存在感は、今後ますます増していく。

古市 今は紳士服各社さんはどこも縮小し、統合されている感じがあります。そういう状況下で今後も戦っていくとした場合、「成功している子会社や事業をどれだけ抱えられているか」。そこにすごく価値がある時代が来ると思っています。

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