出店戦略を見直し地方・郊外での店舗展開を強化/千房、ぷれじでんと千房、ほか

他業態には手を出さずお好み焼き・鉄板焼きで勝負


千房ホールディングス

大阪市浪速区

中井貫二社長(44)


1973年の創業以来、上方粉文化の象徴であるお好み焼きの専門店「千房」を展開する千房ホールディングス(大阪市浪速区)。高級業態「ぷれじでんと千房」などを含めた店舗数は、直営、FCを合わせて75店舗を数える。コロナ禍で受けたダメージは決して小さくないが、逆境の中でも、先を見据えて新たなビジネスモデルの構築に取り組む。中井貫二社長を直撃した。


中井貫二社長(44)

Profile◉なかい・かんじ

1976年生まれ。大阪府堺市出身。慶応義塾大学卒業後、野村證券に入社。2014年、長兄の急逝により同社を退社し千房に入社。2018年、千房ホールディングス代表取締役に就任。



都心部・繁華街中心の出店戦略が裏目



―新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、外食業界は今も厳しい状況が続いています。

中井もっと早く収束すると考えていたこともあり、当社の業績面にも想定以上の影響が出ています。昨年12月も7割程度の水準に落ち込んでいます。特に影響が大きかったのは、インバウンドの恩恵を受けていた店舗で、他の店舗よりも回復に時間がかかっています。全体的に見れば、この年末年始あたりから客足が少しずつ戻ってきましたが、まだ安心できるような状況にはありません。


―お話にもあるように、一部の店舗はインバウンドのイメージが強くあります。コロナ禍が収束しても、訪日外国人観光客がどこまで戻るかは分かりませんが、営業戦略面についても見直さざるを得ないのではないでしょうか。

井コロナ前はインバウンド客だけでいっぱいになっていた店舗がいくつかありました。例えば道頓堀店は、場所が〝引っかけ橋〞という愛称でも有名な戎橋から少し離れていて、出店からしばらくの間は苦戦していました。ところが、外国人観光客を乗せたバスが近くに停まるようになった途端、行列ができるようになりました。一時期はおそらく、お好み焼店として日本で一番売上のある店舗だったと思います。とはいえ、実は会社として意識的に外国人観光客の集客に取り組んでいたわけではありません。


我々はむしろ、どんなときでもいろいろな方に来てもらえる店舗づくり、サービスを心掛けています。飲食店の中には、お客様を選ぶお店がたくさんありますが、私にはそういう発想は一切ありません。これは創業者である、私の父の考えでもあります。よく店頭に「営業中」という看板が出ていますが、「千房」では創業当時から「開放中」という看板を出しています。これには「すべての方に開放していているので、どんどん来てください」という思いが込められています。日本人だろうが外国人だろうが、地元の方だろうが遠方から来られた観光客だろうが、我々にはお客様の属性は一切関係ありません。よって集客面に関して見直す部分はないと考えています。



短期間で投資回収できるモデルを開発




―直営、フランチャイズの両輪で店舗展開されています。コロナ禍における出店・退店状況を教えて下さい。

中井閉店した直営店舗は4店舗で、3月にも1店の閉店を予定しています。ただ、一方で出店もしていたため、数自体はほとんど変わっていません。現時点の店舗数は、フランチャイズ27店舗を含め75店舗になります。


―コロナ禍は、外食企業の出店戦略にも大きな影響を与えています。

中井当社も例外ではありません。我々はこれまで、直営店については、家賃は高いものの、集客と売上が見込める都心部の繁華街を中心に出店を進めてきました。今回のコロナ禍では、これが裏目に出てしまいました。今は都心部への出店を控え、客足の戻りが早く、比較的、業績の下落幅が小さかったロードサイドでの出店に力を入れています。以前はほとんど出店実績のなかった郊外の大型商業施設についても、イオンモールさん側からのお声掛けもあり、店舗を増やしていく計画です。


―当面はロードサイドを中心に出店を進めていくということですが、具体的な出店目標数があれば教えて下さい。

中井年間4、5店舗というところです。ただ繰り返しになりますが、出店費用を抑えたやり方で進めていくことになります。特に力を入れていきたいと思っているのは、独立した店舗を作るよりも少ない投資で出店できるフードコートです。すでにそのためのアイテムもいくつか完成しています。


―出店にかける費用が変われば、収益モデルも従来のものとは大きく変わります。

中井当然、そうなります。当社は定期借家で物件を借りるケースが多かったことから、契約期間である5年ないし7年程度で投資回収できるビジネスモデルを作って、事業を展開してきました。しかし、今のコロナの状況を考えると、5年先のことはまったく予測できません。ということは、出店費用を極力抑えた、短期間で投資回収できるビジネスモデルを考えざるを得ません。先程申し上げたフードコート業態への足掛かりとして考えているキャッシュオンデリバリースタイルの店舗の場合、投資回収は1年半程度で考えています。商品が出来上ったら、呼び出し鈴を鳴らして取りに来てもらいます。大阪では、お好み焼を鉄板で焼かなかったらお客様に怒られますが、地方の場合は普通に喜んでもらえます。鉄板を置くと換気設備などもしっかり整えないといけないので、結構お金がかかるんです。意外に思うかもしれませんが、お好み焼屋さんは、見えないところにものすごいお金がかかっているんです。人員と出店コストを抑える代わりに、売価を下げてお客様に還元します。


―地方郊外でも「千房」の店舗が増えることになりますね。

中井店舗数がそこまで多いわけではないので、今はまだ「千房」の名前は地方にはあまり届いていません。でも大阪ではしっかりブランドを確立できています。だから地方に出店したときには「大阪の千房が初上陸」みたいな形で訴求することができます。そうやって名前が浸透すれば、今度は「本場の大阪に食べに行ってみよう」となる。そんな良い流れを作っていきたいです。


―コロナ禍が終息すれば、再び都心部にも出店していくのでしょうか。

中井いずれはそうなると思いますが、家賃の高い場所への出店に関しては、従来よりも慎重にならざるを得ないと思っています。


―フランチャイズの方の動きについては。

中井フランチャイズについては、地方郊外を中心に展開していたこと功を奏し、3店舗閉店があったものの、自治体の休業要請や時短要請に従いながら、何とかがんばってくれています。


―コロナ前は海外展開に積極的に取り組んでおられました。状況はいかがでしょうか。

中井残念ながら、半分程度は閉めました。ただ、ほとんどがフランチャイズ店舗でしたので、「やる」「やらない」の判断は、加盟店側の判断にお任せしています。海外についてはペンディングになっている案件がかなりありますので、人の行き来ができるようになったら、また再開したいと思っています。


―コロナ禍を機に、事業の多角化に取り組む企業が増えています。御社でも、2019年からおでん居酒屋を運営されています。

中井おでん居酒屋は、我々が新たに開発したものではありません。堺市の老舗「たこ吉」が閉店するというので、以前から知り合いだったこともあり、当社の方で事業を引き継ぎました。大変有名なお店でしたし、大阪の食文化を守りたいという気持ちもありました。ただし、これはかなり特殊なケースで、基本的には「餅は餅屋」ではないですが、他のことには手を出さず、お好み焼き、鉄板焼きで継続していくつもりです。今のところ、新たな業態を開発する考えは私にはありません。



営業再開に備え、コロナ禍でも新入社員を採用



―コロナ禍は、外食業界の人手不足をさらに深刻化させています。営業を再開したものの人手が足りず苦労している飲食店は多いようです。

中井外食ビジネスにとって一番大事なのは人材です。当社は再開後のことを見越して、自粛期間中で会社が苦しいときも、社員は誰一人解雇しませんでした。もちろん、その間の給料は100%払い続けました。新入社員についても、2020年4月期、2021年4月期ともに、40名程度採用しました。当然、社内では「今年だけでも中止にしたらどうか」という意見はありました。しかし、これだけ外食業が叩かれているにもかかわらず、親御さんは大切なお子さんを我々に託してくれました。私は、その期待にだけは絶対に応えなければならないと思っています。


―アルバイトが集まらないという声も多く聞きます。

中井うちもその点はとても苦労しています。もともといた方には、社員同様、休業中も給料を払っていたのですが、営業が再開して忙しくなった途端、辞めてしまう方がいます。「今まで働かなくても給料をもらえたのに、働かないと給料をもらえないのなら辞めます」という感じです。これでは、何のために給料を払い続けていたのか分かりません。ただ、文句を言っても仕方ありませんので、また募集をします。でも、なかなか応募は来ません。これは当社に限ったことではないのでしょうが、以前よりも深刻さは増していると思います。とはいえ、今後も店舗を増やしていくために、うまく付き合っていかなければならない問題ですね。


道頓堀ビル店

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