M&Aプラットフォームの現在地

中小企業に特化した「お見合いサイト」コロナ禍でマッチング件数過去最高へ/バトンズ


バトンズ

東京都千代田区

大山敬義社長


M&Aの市場規模は年々拡大しており、2019年には初めて4000件を超えた。2020年はコロナ禍の影響で減少に転じたものの、2021年は再び上昇し、過去最高件数を記録するといわれている。一方で取引総額は、ここ数年間、概ね横ばいで推移している。このマーケットの変化は、一つの案件が小規模化していることに起因している。目立つのは中小企業を中心とした事業承継型のM&A。潮流を作っているのがインターネットによるマッチングサービスだ。

(ビジネスチャンス12月号より)


大山敬義社長

Profile◉おおやま・たかよし

1991年、日本M&Aセンターを設立(創業時メンバーの一人)。2004年6月、内閣府認可特定非営利活動法人日本企業再生支援機構理事に就任。2006年6月、日本インベスターズ証券取締役就任(2008年6月退任)。2011年3月、シーガル・リゾートイノベーション取締役に就任。2012年4月、日本M&Aセンター常務取締役に就任(2019年6月退任)。

2016年4月、企業評価総合研究所取締役に就任(2018年6月退任)。2018年4月、アンドビズを創業(現バトンズ)代表取締役に就任。

インターネットによるM&Aマッチングサービスは、原則として売り手企業は登録無料、匿名による条件掲載によって、人手をかけることなく全国から不特定多数の買い手候補企業を募ることができる。新サービスの登場でこれまでM&A市場に出てこなかった中小企業が次々と参加し、大きなマーケットになりつつある。現在、大手と呼ばれるサイト運営者(プラットフォーマー)は、バトンズ(東京都千代田区)、トランビ(東京都港区)、ビズリーチサクシード(東京都渋谷区)の3社。最大手に位置するバトンズは、2014年4月に東証一部上場の日本M&Aセンター(東京都千代田区)の@net事業部からスタート。現在はユーザー数約12万8000名、累計M &A案件数約1万2000件、累計マッチング数約8万7000件を誇る。


年間成約数は500件超見込む

登録会社の80%が年商1億円未満



―従来のM&A仲介企業とプラットフォーマーの立ち位置の違いは。


大山 何よりもターゲットになる企業の規模が違います。不動産ビジネスで例えると日本M&Aセンターのような仲介会社は、三井不動産や三菱地所です。数億円もするビル1棟を 売り買いするのは、こうした規模の企業でないと扱えない。一方、一般の人が家を売り買いするのは、何を頼りにするかというと今はスーモやアットホーム。当社のようなプラットフ ォーマーは後者にあたります。今までは不動産を買うには近場の不動産屋に行っていました。それがネットの進展とともに不動産仲介のプラットフォームが形成されていった。M&A市場も同様ですね。


―スタート以来、掲載される案件数も増えてきました。数がある程度ないとプラットフォームは出来上がらない。それだけニーズが増えてきたということでしょう。

大山 比例して成約件数も年々増えてきています。特にコロナ禍の1年間は顕著でした。今年は7月が30件、8月は昨年の倍で、9月は2日間で12件成約となり、月ベースでは最高の見込みです。年間の成約件数も昨年は252件、その前年は160件、さらにその前年は80件と着実に増えてきました。今年はおそらく500件行くのではないでしょうか。仲介会社が扱うような巨大な案件はバトンズには出てこない。こうした棲み分けが出来上がってきました。ビルを買いたいという人は三井不動産に行けばいい、というわけです。


―参加する企業の規模は。 大山 当社を利用される企業は、売上高で数千万円〜5億円以下、従業員10名くらいの規模が中心です。中でも1億円未満が80%を占めています。この部分は、まさに大手の仲介会社や銀行が相手にしなかった企業です。譲渡金額は1億円以下です。当社はこうしたM&AをスモールM&Aとして、従来のM&Aと区別しています。また、成約までの期間も短く、普通のM&Aは成約まで平均11か月かかりますが、プラットフォームを利用する企業は平均3・5か月程度です。



―例えば売り手がサイトに情報を掲載すると、どれくらいの買い手が手を挙げるのですか。

大山 弊社のHPに記載している累計マッチング数は、掲載された売り手に対して何件買い手がついたかをあらわしています。その比率は1:8、つまり1社掲載されれば2週間ほどで8件が手を挙げている計算になります。実際中小企業のM&Aマーケットは売り手よりも買い手が多い。しかし、売り手もどんどん増えてきていますので、だんだん買い手有利と言われ始めています。


―M&A市場全体から見ても、小規模事業所のM&Aが増加しています。

大山 M&A自体も私が日本M&Aセンターに入社した30年以上前と比べて大きく変化してきました。当時はそれこそ数100件しかなかった。


―中小規模事業者の売却案件は、統計に表れないものも多いでしょう。

大山 実際に少なかったと思います。中小企業は家業という意識が強く昔は会社をやめるか、子どもが継ぐか、の2択がほとんどでした。そもそも会社を売り買いするという発想は 薄かった。


―経営者の意識が変わってきた。

大山 今と違って感覚が違った。ところが数年前から意識は大きく変わってきたと思います。当社を立ち上げた当初は悲惨なものでしたから。もっともアメリカでは10年以上前から、プラットフォームを通じた中小企業同士のM&Aは当たり前になっている。そういう意味では日本は、10年以上遅れていると思います。



アメリカよりも10年遅れの日本

マーケットは拡大傾向に



―日本M&Aセンター時代から小型のM&Aに着目していました。

大山 マッチングサイトというビジネスを始めたのは、10年以上前にアメリカに行った経験からでした。小型の案件をやるにはどうしたらいいかと研究しにいったのです。従来のような仲介ビジネスだと、人間が介在するため、どうしても大きな案件に行きがちになる。


―確かに一度大きな案件を手掛けてしまうと、なかなか小さな案件を手掛けるのは難しくなる。数でいえば中小企業が圧倒的に多いにもかかわらずです。

大山 アメリカではビジネスブローカー、日本では投資銀行と呼ばれる企業がM&Aを行っています。そもそもアメリカでは、小型の売買はM&Aとは呼ばない。ビジネスバイなどという言い方をします。だから本当は日本でも名前を変えるべきなのですが、少なくとも、当社はスモールM&Aとあえて言っています。M&Aという言葉が広まってしまって、日本では大型も小型も一緒にされている。


―確かにM&Aでいえば、ソフトバンクが何兆円もかけて買収するのもM&Aですし、街のお店の売り買いもM&Aといわれている。ビジネスモデルが決定的に違う。

大山 もともと分けて考えていかなくてはいけなかった。日本ではようやく10年遅れてプラットフォームの市場ができてきた。そのため、この市場はまだスタートラインに立ったばかりです。海外のプラットフォーマーでは、最大手といわれるイギリスの会社だと、売り案件だけで7万件、1年間で成立案件は10万件あるといいます。日本はトータルで4000件程度ですから、桁が違うわけです。

企業は「水平統合」で経営リスク軽減

個人は「起業目的」の買収事例が増加


M&Aプラットフォーマーの収益モデルは、成約時に買い手から手数料として2〜3%を徴収するものが多い。しかし、平均譲渡額が1億円とすると、売り上げは200万円程度しかならない。手数料5%にレーマン方式を採用する仲介会社と比べると額が1桁違う。そのためプラットフォーマー各社のビジネスモデルはそれぞれ独自性を打ち出している。バトンズはM&Aを円滑に進めるためのノウハウを専門家に提供している。


専門家へのサブスクが収益源
成約手数料は2%を維持

―M&Aプラットフォームは国内で200サイト以上あるといわれていますが、大手と言われるのはバトンズ含め3社です。しかしビジネスモデルは各社違います。

大山 当社は会計士や税理士や銀行を紹介する機能があるのですが、これが大きな収益源となっています。つまり、専門家がサイト登録する金額、サブスクリプションが当社のビジネスモデルです。当社は企業にはM&Aがしやすくなるツール、専門家にはM&A成功への支援ツールを提供しています。当社はあくまでプラットフォーマーですので仲介には介在しません。その代わりに当事者同士が円滑に進められるよう、専門家を活用してください、というわけです。専門家の方にもM&Aを成約させるための情報を提供します、ということです。成約に関わる手数料は現在2%ですが、本来であればゼロにしたい。ただゼロにしてしまえば冷やかしが増えていく可能性もあるため、当面は手数料を頂くことになるでしょう。


―将来的にはビジネスモデルは変わってきますか。

大山 アメリカは広告の国というだけあって、プラットフォーマーは広告が収益源になっています。買い手が売り手よりも多いので、買い手が自分で広告を出す。日本でも買い手が広告が出すケースが出てきました。そのうち、売り手も増えれば売り手側も広告が出る。こうなれば手数料はゼロになるのではないでしょうか。ただし、バトンズではあくまでもプラットフォーマーとしての位置づけなので、自社による仲介は一切行わないというスタンスは貫いていきたい。



多くの中小企業・小規模事業者には、「2025年問題」が重くのしかかる。2025年までに企業の平均引退年齢の70歳を超える経営者が約245万人となり、約半数の127万人が後継未定だという。近年の経営者の高齢化や、人材不足による事業承継の深刻化が顕在化している。ここに追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスの感染拡大だ。東京商工リサーチによれば、2020年に休廃業・解散した企業は、前年比14・6%増の4万9698件だった。これまで最多の2018年4万6724件を抜き、 2000年に同社が調査を開始して以降、最多となった。


買い手経営者の年齢層が年々低く
新規ビジネス立ち上げ目的が主流に


―コロナの影響で、中小企業の事業承継問題が顕在化しています。中小企業経営者の平均年齢は、この23年間で47歳から69歳に上昇した。自分の会社の行く末をどうするか、決断を迫られる企業が増えている。

大山 事業承継自体もM&Aが主流になってきています。もともと中小企業の事業承継問題が顕在化している中で、コロナが決断を後押ししたといえます。余力があるうちにやめ ようと。今だったら辞められる。


―行政の施策も影響している。中小企業庁では、2017年より今後5年程度を事業承継支援の集中実施期間とする「事業承継5ヶ年計画」を策定しています。

大山 ただし、事業承継に関する施策は限定的です。今後10年後はどうなるかわからない。そういう意味では今が中小企業にとって変わるチャンスともいえます。


―プラットフォームへの参加企業の変化は見られますか。

大山 昔は売り手も買い手も経営者がある程度年齢が高かった。しかし今は、買い手は売り手よりも15歳若くなっています。多くの買い手は、業域を拡大するために、もともとある ものを買う、という志向になっています。新規ビジネスをゼロから立ち上げるのは難しい。売り上げをゼロから1000万円にするのは大変です。合理的な判断をする経営者が増えてきました。


―近年のM&Aの動向でトレンドはありますか。

大山 ビジネスのリスクヘッジを考える企業が増えたと思います。以前は選択と集中を進める企業が多かったのですが、コロナ禍で地獄を見ることが分かったからでしょう。


―ビジネスとしてポートフォリオを組んだ方がいい。

大山 結局コングロマリットが強かった、というわけです。


―企業だけでなく、個人の参加も多いと聞きます。

大山 今は個人の買い手によるM&Aは30%ほどあります。M&Aというよりは、起業の一環として会社を買うケースが目立ちます。先ほどと同じ理論で、全くゼロから会社を立ち上げるよりは、ある程度実績があり、人材や資産がある会社を買って、カイゼンすればいいわけです。その方が効率的でリスクも少ない。


M&Aプラットフォーマーは現在、国内で200社ほどが運営しているといわれている。市場が拡大するにしたがって、競争はますます激しくなることが予想される。バトンズは、数の論理をもって他社との差別化を図る。そのためには成約数を現在の倍以上である1000件にまで伸ばしたいという。仲介会社大手の日本M&Aセンターが900件であることを考えれば、目標を達成すれば名実ともに国内トップになる。

事業承継「2025年問題」 対応するツールに成長
成約率を15%から20%へ 年間成約数1000件目指す

―成約数を高めるためには、参加企業の増加はもちろん、成約率の向上も大きな課題です。

大山 バトンズの成約率は最初7%くらいだったのですが、いまは約15%です。これを20%ぐらいまでは持っていきたい。そのためには、様々な企業や行政含めてアライアンスを進め、マッチングを促すシステム造りが必要です。バトンズは当初システム造りに2億円を要しましたが、今後も継続的な投資が必要でしょう。


―プラットフォーマーという立場であれば人件費は少なくて済む。

大山 ところがそういうわけにはいかない。成約率を高めるためには、サポートできる人材は必ず必要です。人を介した仲介会社の成約率は約30%、トッププレイヤーの人間がやれ ば50%の時もある。 当社は仲介までは行わないけれども 双方にアドバイスができるようにする。従って今後も人員のサポートが必要になる。当社は9月だけで5人を増やしました。


―システムという面では、サイト自身も常にアップデートする必要性がある。

大山 今後は売り買いの絞り込みをするシステムも必要になるでしょう。 今でも1社の売り手に対して、多くの買い手が手を挙げる。多い時は1:250というケースもあります。それだと売り手側がそれぞれの企業 を精査して連絡するだけで、時間と手間がかかるわけです。実際、こうした企業は成約できていない。これをアルゴリズムによって絞り込んでいく。アップデートは常に必要になってくるでしょう

閲覧数:15回0件のコメント