顧客の細かい要望に応える柔軟さが最大の強み グローバル展開を目指しIPOで社会的信用を獲得

HPCシステムズ(東京都港区)


科学技術計算に対応する高性能コンピューターの開発・製造を手掛けるHPCシステムズ(東京都港区)。年商は約54億円、今年9月には東証マザーズへの上場を果たした。上場の狙い、今後の展望などについて小野鉄平社長を直撃した。(※2020年2月号より)



小野 鉄平 社長(45)

おの・てっぺい

1974年1月5日生まれ。State Street Bank and Trust Companyなどを経て、2006年5月にプロサイドに入社。同年9月、HPCシステムズの設立に伴いコーポレート本部長兼CFOに就任。2007年12月より現職。


―HPC事業とCTO事業という、あまり聞きなれない2つの事業を柱にしています。


小野 確かにそうですね。HPC事業と言うのは、“High Performance Computer”の略で、高性能なコンピューターに関わるソリューションを提供しています。もう少し具体的に言うと、最先端の開発の研究者や開発者、大学の公的研究機関の方々が抱える問題や課題を、高性能コンピューターを使って解決しています。


―どんな分野の研究で使われているのでしょうか。


小野 主には科学技術分野です。最近だと、リチウム電池の研究で旭化成名誉フェローの吉野彰さんらがノーベル化学賞を受賞されましたが、あれももともとあった理論と実験に、コンピューターを使ったシミュレーションで新しい現象を見つけて研究したものです。身近なものでは、ダイソンの掃除機もそうです。ものすごい吸引力がありますが、あれはどんな形にすれば一番対吸引力を出せるのか、コンピューター上で何度も仮想の物を作って計算しています。車の衝突実験も、昔は人の勘や経験に頼ったり、実際に車をぶつけてああでもない、こうでもないとやっていましたが、それだと膨大な時間やコストがかかってしまう。でもコンピューターを使って、ある程度のところまで仮想的に実現してしまえば、そういった無駄がなくなりますよね。

車以外にも橋やビルの災害のシミュレーション、河川をつくる際にはどうやって流せば周囲に影響を与えないとか、そういったものも全部、コンピューター上でシミュレーションできます。最近は創薬の分野にも活かされていて、例えば人間の中にある病原菌に対して、どういう化合物を当てはめれば病気を抑えたり治すことができるのか、そういうこともできてしまいます。


―今やモノづくりにおいて、コンピューターを使ったシミュレーションは欠かせないということです。


小野 おっしゃる通りです。車のマフラーにしても、白金の触媒効果を利用して排気ガスの量を減らしているのですが、白金を使って何度も実証実験を繰り返したらとんでもないコストがかかってしまいますよね。しかし量子科学計算という方法を使ってある程度のところまで分かれば、それだけ開発コストを大幅に削減することができます。


―コンピューターのメーカーというよりも、企業や研究機関が抱える課題を解決するというのが、御社の強みのようですね。もう一つのCTO事業とはどんなものなのでしょうか。


小野 こちらは“Configure To Order ”という意味で、色々な装置を制御するためのコンピューターを、お客様の要求に合わせて開発して量産し、長期安定供給するという事業です。「長期安定供給」というのが大事なポイントで、例えば医療機器のMRIやCTは、寿命が5年とか10年あるのですが、当然、使われている間はずっとサポートしなければなりません。仮に普通のパソコンを使っていたとすると、新しい機種が発売されたり、OSが変わるたびにパソコンの入れ替えをしなければならないため、メーカーとしては非常に困ります。というのも、医療規格は装置全体で取得しなければならないからです。費用が安ければまだ良いですが、これには数百万円から数千万円の費用がかかります。中身のコンピューターが変わる度に規格を取り直していたのでは、とてもじゃありませんがやっていけません。そこで我々は、お客様が必要としているパフォーマンス、品質なんかも加味しながら部品を選定してコンピューターを作り上げ、長期安定供給できる状態に仕上げて、提供しているのです。


産業用装置を成業するためのコンピ ューター開発などを手掛ける


―競合は富士通やNECなどになるのでしょうか。


小野 同業ではありますが、すみ分けはきちんとできています。大手が得意としているのは、ある程度のボリュームが見込めるゾーンで、画一的な製品を作って、お客様にはそれに合わせてもらうというようなスタンスですよね。我々は、価格や品質、性能など、お客様の要望を聞いた、その上でゼロからコンピューターを組み上げていきます。業種的には同じでも、実際にやっていることはだいぶ違います。


―そもそもどういった経緯で、HPCシステムズは誕生したのでしょうか。


小野 この会社はプロサイドとエッチ・アイ・ティーという2つの会社が合併して、2006年にできました。プロサイドは1987年の創業で、ネットでパソコンを販売したり、産業装置に組み込まれるコンピューターなどを売っていました。一方のエッチ・アイ・ティーは、ソフトウェアとインテグレーションを強みにしていた会社です。私はプロサイドに入り、2007年に今の立場になりました。


―IT技術の進化のスピードから考えて、今と設立当時では、業界を取り巻く環境はずいぶん違うと思います。当時から、今のような事業を手掛けておられたのでしょうか。


小野 だいぶ変わりましたよ。最初は、どちらかというとハードウェアの部分に特化していました。当時はまだ、高性能コンピューターを買おうと思ってもなかなか売っていなかった時代、我々は高性能な部品を集めてきて、それを組み立ててお客様のところに納品していました。パソコンというよりも計算機ですね。それをやっているうちに、分子をシミュレーションするようなソフトウェアが出てきて、「それも一緒に納品してくれ」とお客様から言われるようになりました。でも入れたけど今度は動かない。それで動かせるようにインテグレーションする。こんなことを繰り返しながら、今の事業内容に変わってきました。


―今年の9月末に、東証マザーズへの上場を果たしました。IPOの狙いについて教えて下さい。


小野 最近は資金調達を目的としたIPOが多いですが、それよりも社会的な信用を今以上に強化したいという思いが一番にありました。

実は以前、サウジアラビアにある石油会社のアラムコと商談したことがあるのですが、最終的に「どこの会社かよく分からないから取引きできない」と言われてビジネスになりませんでした。それで、国際的に事業を展開していくためには上場が不可欠だと考えるようになりました。色々な会社と業務提携したり、あるいはM&Aする際にも、社会的な信用は不可欠ですからね。


―事業内容を考えると、スタッフにはかなり高度な技術、知識が要求される印象です。


小野 9月末現在85名の社員がいますが、そのうちの33名はエンジニアです。HPC事業に関わるエンジニアのうち7割は修士博士です。有機合成や物理、化学、機械学習、データマイニングなどの専門家ですね。

よく「人材確保が大変では」と聞かれますが、仕事柄、大学の研究室などにも多くのルートがあるので、周りが思うほど苦労はしていません。


―今後については。


小野 我々のような会社は世界的に見てもほとんどありません。だからこそ海外にも多くのビジネスチャンスがあると考えています。まだまだ万全ではありませんが、国内事業を着実に伸ばす一方、早い段階で本格的に海外にも進出し、世界的な企業とも取引できるような会社に成長したいと思っています。

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