苦境の中で浮かんだ株主優待サイトのアイディア 今では前年比87%成長しビジネスの大きな柱に

ウィルズ(東京都港区)

杉本光生社長


2019年12月17日にマザーズ上場を果たしたウィルズ(東京都港区)。同社は機関投資家による上場企業の株式保有状況を調べることができるクラウドサービス「IR-navi」、保有株主数や保有期間に応じて株主優待ポイントが付与される「プレミアム優待倶楽部」事業を柱に、2019年度売上高は前年比54.4%、営業利益17.3%増と増収増益を達成した。成長の源泉となったのは、リーマンショックと東日本大震災を乗り越えた経験と自信だった。(※2020年6月号 巻頭特集「コロナ不況に負けるな! リーマンショックをチャンスに変えたり男たち」より)



杉本光生社長(53)

すぎもと・みつお

1966年4月29日生まれ。1991年4月に、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社、インテリジェンス(現パーソルキャリア)を経て、アイ・アールジャパンに入社。その後、ストラテジック・アイアールの経営に参画、2001年合併による新会社ジー・アイアール・コーポレーション取締役に就任。2004年10月、同社を設立し代表取締役社長に就任。



「IR-navi」600社以上が採用

第一号はパナソニックへの直談判


─証券コードを入力すれば、自社の株保有者が瞬時にわかるサービス、「IR-navi」は、現在600社以上に利用されています。

杉本 このサービスを作ろうと思ったきっかけは、1997年頃の金融ビッグバンでした。当時はIRコンサルティング会社で、上場企業のマニュアルレポート作成に従事していました。

─それまでは金融機関との持ち合いだった多くの株が大量に市場に放出されました。代わりに日本の企業に投資する外国人が増加し、シェアが10%を超えるようになった。

杉本 「どれくらいの外国人が投資しているのか」というクライアント企業からの問い合わせが目立つようになり、このニーズに応えられるビジネスを考えたのです。そこで、2004年に独立したのですが、当初はIRコンサルや、統合報告書などを作成して、売上高は約1億円程ありました。その利益を全て開発資金として投資したのです。こうして完成させたのが現在の「IR-navi」の原型です。

─利益のほとんどを投資に回した成果はすぐに出ましたか。

杉本 私としても「これは売れる」と、意気揚々と上場企業に営業しました。ところが半年間で500社近くを訪問したものの1社も売れなかった。「面白い仕組みだけど信用できない」という訳です。


─実績がないため、企業にとって信用がなかった。一介のベンチャー企業が上場企業とすぐに取引ができるほど甘くはないですね。

杉本 なんとか信用を得るためには、実績を作るしか道はない。それも大企業に使ってもらわなくてはいけない。そこでパナソニック、当時の松下電器へ勝負をかけたのです。

─起死回生を狙った。

杉本 お会いした担当の方に「無料でいいのでぜひ使ってください」と話したのですが、やはりだめでした。お金の問題ではなかったのですね。しかしこちらも事業の瀬戸際でしたから、どうしてもあきらめきれない。イチかバチかIR部長宛てに封書で手紙を送ったのです。少しでも誠意が伝わればという必死の思いでした。すると、IR部長から連絡が来て、数ヶ月間社内で検討していただき、正式に採用していただけることになったのです。定価200万円の製品ですが、なによりも大企業が採用したという信用力を得ることができたのです。

─ やはり信用というものは大きい。そして上場に向けて走り出した。

杉本 半年間で100社が採用していただけることになり、2008年までは売上高も倍々ゲームでした。売り上げはすぐに2億円を超えた。いろいろなベンチャーキャピタルからお話をいただき、ついには三菱UFJ銀行から1億5000万円を調達することができたのです。当時本体が投資することは異例だったそうです。だから話題にもなった。なにせうちの株主名簿に「三菱UFJ銀行」の名前が載ったのですから。

─それだけ、ビジネスへの期待が大きかった。上場も見えてきました。

杉本 もうまっしぐらです。ところが、翌月にはリーマンショックが起きてしまった。

─融資を受けた翌月とは。しかし運がよかったですね。

杉本 1ヶ月ずれていたとしたらと思うと今でもぞっとします。その場は助かったのですが、その後、クライアントが次々とIRをやらないと言い出してしまった。

─確かに日経平均はあっという間に1万円を割って、9000円、8000円と下落する一方でした。クライアントもIRどころではなかったでしょう。

杉本 当時はクライアントが200社を越えていたのですが。50社以上から解約されてしまった。その頃は結構攻めの営業をして、どんどん業績が伸びる前提で事業計画を立てていたものですから、あっという間にショートしてしまった。2008年は売上約5億5000万円に対して、1億5000万円と過去最高の大赤字を出してしまった。

─それはひどい。資金繰りも相当厳しかったのでは。

杉本 オフィスも家賃を下げるために移転して。社員も当時は45人ぐらいいたのですが、人員削減したり、役員全員3ヶ月間給料ゼロにしたりして、何とかしてコストダウンして

しのぎました。

─ベンチャー企業にとってはどこも厳しい時代でした。銀行はもちろん、ベンチャーキャピタルも手のひらを返したように融資の引き締めを図っていました。

杉本 売り上げも3億円台まで落ち込みました。2009年頃から何とかやりくりして2年間でやっと建て直したところに、今度は、2011年に東日本大震災が起きて、また苦労することになりました。

─上場までの道のりは波乱万丈ですね。

杉本 ようやく潮目が変わったのが、2013年頃からのアベノミクス政策でした。それ以前には、「IR-navi」事業1本ではダメと考えて「プレミア優待倶楽部」という新しいサービスを考えていました。

─「プレミアム優待倶楽部」の売上が前年比87%以上伸長しました。

杉本 「プレミアム優待倶楽部」は、企業ごとに専用の株主優待サイトを立ち上げて、その企業の株主がサイトに会員登録することで、保有株式数や保有期間に応じて優待ポイントが付与されるという仕組みです。きっかけは食品大手から「16万人の株主を、株主管理コストがかかって仕様がないから電子化したいが、いい方法はないか」と相談があったことでした。そこでインターネットを通じて会員登録すればポイントをつけるというインセンティブをあげれば、というアイディアを思いついたのです。ではインセンティブは何がいいかというと、株主優待と結びつければいいのではという、今のビジネスの原型ができました。

1800兆円の個人金融資産を株式投資へ

日経平均株価向上の一助に

─「プレミアム優待倶楽部」は、個人の株式投資へのハードルを低くしています。

杉本 日本には1800兆円もの個人の金融資産があるといわれていますが、これが株式投資に回っていない、というのが実感です。個人投資家が増えればもう少し日経平均株価は上がってもいい、というのが私の考えです。どうすれば個人投資家が増えるのだろうとリサーチした結果、株主優待と高配当の銘柄ならば買うということでした。

─自社で株主優待を行っている企業は増えています。株主は増えるし、株価も上がる。しかし、多くは一時的で長期保有してもらえることは少ない。しかも、企業にとっては、株主への通知で1通当たりの紙代などの管理コストが膨大になる。

杉本 当サービスでは、保有期間に応じてもポイントが溜まりますので、長期的に保有していただくだけメリットは大きくなる。管理コストについても、自社でやれば1通あたり500円以上のコストがかかります。そのため、当社のサービスを利用する企業が増えているのです。実際、導入した企業では、すぐに出来高が増え、株価も上昇しました。

─最近は仮想通貨を使って他社の株でもポイントを合算し変換できるサービスも行っています。

杉本 これも個人投資家の動きを活発化させたいとの考えからです。株主優待制度を導入している企業は1500社程ありますが、当社のシェアはまだ2.8%に過ぎない。サービスの充実化によって開拓の余地はあると思っています。

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