年収300万円の壁を打ち破るために社員雇用 研修・教育制度を確立

フレアス(東京都渋谷区)


在宅療養者を対象にした、あんまマッサージ・鍼灸の訪問マッサージ事業を手掛けるフレアス(東京都渋谷区)。徒弟文化が定着していた業界に社員制度や研修制度など、会社組織の仕組みを持ち込み、平成12年の創業から19年目の今年3月、ついに東証マザーズ上場を果たした。IPOの狙いや今後の展望などについて話を聞いた。(※2020年2月号より)



澤登 拓 社長(50)

さわのぼり・たく

1969年1月9日生まれ。山梨県出身。北陸大学外国語学部在学中に北京中医薬大に留学。大学卒業後、東海医療学園専門学校で鍼灸を学ぶ。2000年にフレアスの前身となる「ふれあい在宅マッサージ」を創業。

立ち塞がる「年収300万円の壁」


―昨年度の売上高は約37億円で、前年度から13%の増収となりました。今年3月には業界唯一の上場企業となり、今期もここまで業績は順調に推移しているようですね。


澤登 昨年度は、営業利益が約2億7600万円、経常利益が3億1300万円と、ともに大きく上振れ、軒並み前期比60%超の増益を達成することができました。今期もこの調子を維持し、何とか目標とする売上高約42億円を達成したいですね。


―そもそも、あんまマッサージ・鍼灸の業界には、御社のようにチェーン展開する大手企がほとんどありません。最大手のなることができたのは、どのような戦略によるものなのでしょうか。


澤登 それを説明する前にまず、この業界について説明しておく必要があるでしょう。実はこの世界は、今だに徒弟制度が一般的で、当社のようにマッサージ師を正社員として雇用している会社はほとんどありません。

 なぜこのような状態が長く続いているのかというと、鍼灸師は国家資格であるにもかかわらず、それを取得するために通う専門の学校や国家試験を通じて、技術的な部分を学ぶ機会がほとんどありません。そのため、学校を卒業すると、ほとんどの方は地元の小さな整骨院などに就職して、ようやくそこで施術を学びます。といっても、手取り足取り丁寧に技術指導してくれるわけではありません。基本的には、先輩のやり方を見て、見て学ぶと言った感じです。下積みのようなものですから給料も安い。年収150万円や200万円というのも珍しくありません。10年20年キャリアを積んだ方でも、300万円くらいがやっとというところです。これでは独立もなかなかできないですし、できたとしても事業を大きく伸ばすことができません。


―お話を聞く限り、あまり儲からない業界だという印象ですが、澤登社長はなぜこの業界に飛び込もうと思ったのでしょうか。


澤登 子供の頃から、特に悪いところがあるわけではないのに体を壊すことが多かった私は、30年ほど前に中国の北京に語学留学した際に、せっかくだからと漢方薬を試してみました。すると、思いがけず体調が改善しました。それで気功も試してみたところ、今度はヘソからピンク色の水が出てきて、先生に「体の中の悪い水を出した」と言われました。これについてはさすがに、何か変なことでもされたのではないかと思いましたが、翌朝になると手が火照るように熱くなっていました。ちょうど真冬だったのですが、それこそTシャツ1枚でも過ごせそうなくらいでした。このことがきっかけで、自分も同じような悩みを抱えている人の助けになりたいと考えるようになり、向こうで勉強を始め、帰国後にはり灸マッサージ治療の免許を取得して、整骨院に就職しました。


―独立に至った経緯は。


澤登 就職したまでは良かったのですが、先程も話したようにこの業界には“年収300万円の壁”というものがあって、とても食べていけるような状態ではありませんでした。私の場合、初任給は10万円。3カ月して正社員になっても、社会保険なしで13万円という給料でした。初年度の年収は、確か150万円にもとどいていなかったと思います。これではいつまで経っても生活は良くならないし、人の手助けもできない。それで自分なりに色々調べていくうちに、健康保険を使って寝たきりの方にマッサージするという仕事があることを知り、これにかけてみようということで、2000年に山梨の実家で開業しました。


社員制度、教育・研修制度を構築


―スタッフの給与水準を引き上げ、チェーン展開を進めるために、どのような体制を作り上げたのでしょうか。


澤登 まず、徒弟制度という時代にそぐわない古いやり方をやめ、従業員は基本、社員として雇用するようにしました。一方で売上を伸ばすためには、技術を向上させて客単価を引き上げなければなりません。そこで、高いスキルと施術に必要な知識を身に付けるための研修・教育の仕組みも作りました。結果、現在の平均年収は350万円まで増えました。


―教育制度の中身について教えて下さい。


澤登 入社1年目には100時間、2年目には75時間、3年目以降は60時間の研修を行っています。また、これとは別に全社員にiPadを支給して、600タイトルのeラーニングを受講させています。いつ誰がどんな勉強をして何点取ったのか、これですべて把握できるようになっています。技術面についても、10人につき1人の指導者を付けて、腕の使い方や身体の動かし方などについて、全150項目のチェックを行っています。この業界で、技術を“見える化”しているのは我々だけだと思います。


―業界改革とも言える取り組みは、最初からうまくいったのでしょうか。


澤登 最初は苦労しましたよ。売上はそれなりに良かったのですが、とにかくお金が回らなくて。消費者金融を利用したこともありましたが、1年後に国民金融公庫から融資を受けることができてようやく落ち着くことができました。そこからはとんとん拍子で、県内に事務所を借りたのを皮切りに、福岡、沖縄、金沢と事業所を増やしていきました。今はもうありませんが、社会的な信用を得るために、横浜のランドマークタワー内に事業所を設けたこともあります。


鍼灸師らの所得水準を引き上げるべく、さまざ まな改革に取り組む(写真はイメージ)

障がい者雇用率は12%


―現在、全国で97の拠点を展開されています。今後の出店計画についてはどのように考えておられるのでしょうか。


澤登 今年度内に、マッサージだけで100拠点を超える計画です。ただし、これはあくまでも通過点に過ぎません。団塊世代の病院ベッドが不足すると言われる2025年までに、600拠点くらいまでにはしておきたいと思っています。とはいえ、直営だけでこれを達成するのはほとんど不可能です。そこで、今年度からフランチャイズ展開も開始しました。


―あらゆる産業が人手不足問題に直面しています。


澤登 現在、440名のマッサージ師が在籍しています。人手不足であることは間違いないのですが、免許を持っている人が業界全体で19万人もいることを考えると、我々はこのうちわずか0.2%しか取り込むことができていません。IPOにより、今後は今までよりも雇用がしやすくなるでしょうから、あまり心配していません。また、マッサージの仕事は全盲などの障がいを持った方でもできる仕事なので、うちはかなり積極的に障がい者雇用に取り組んでいます。その証拠に、当社の障がい者雇用率は12%と、非常に高いです。一番高い企業で14%ということなので、いずれはこの部分でもトップに立てればと思っています。

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