名古屋の喫茶店文化を全国に拡げたFC 加盟店の個性を活かす「コメダ流」経営/珈琲所コメダ珈琲店/臼井 興胤 社長【後編】


コメダホールディングス

愛知県名古屋市

臼井 興胤 社長(62)


北海道から沖縄まで全国約900店舗をチェーン展開している「珈琲所 コメダ珈琲店」(以下:コメダ)。コロナ禍で他の喫茶店チェーンの売上が落ち込む中、地元近隣住民のリピーター客の多いコメダは、好調に推移している。社長の臼井氏にコメダの強さの源泉を聞いた。(※2021年4月号「Top Interview」より)



臼井 興胤 社長(62)

Profile うすい・おきたね

1983年に三和銀行(現:三菱UFJ銀行)に入行。その後2006年3月に、日本マクドナルドに入社。COOに就任。2008年5月にはセガ代表取締役社長COOに就任。2013年7月にコメダ入社、代表取締役社長に就任。翌年にはコメダホールディングス代表取締役社長に就任、現在に至る。

飲食店の3大コストは、F(Food、食材費)、L(Labor、人件費)、R(Rent、家賃)。月の売上が860万円の収益モデルケースでは、F(食材費)が31・6%、L(人件費)が30・5%、R(地代家賃)が10・5%となっている。しかしこの数値は、地域差や客単価、スタッフの管理能力などにより、大きな違いが発生する。特にコメダのビジネスモデルを特徴付けるのが、立地に対する、将来を見据えた鋭いコスト感覚だ。

ビジネスモデルの根本は「Rコスト」 20年先を考えて立地を選ぶ


――コメダはロードサイドの郊外店が多い。Rコストが高いのでは。


臼井 多くても12%が上限ですね。コメダが名古屋で生まれたのは、東京に比べて名古屋の地代が圧倒的に安かったから。こんなゆったりした客席配置の店は、東京では生まれなかったでしょう。たとえば九州のロードサイド型店舗では、売上が800万円で、土地の賃料は35万円、つまり5%以下のところもあるんですよ。


――立地に関しての方針は。


臼井 コメダはいったん開店すると、20年くらい続く商売になることも多い。だから立地は厳選します。たとえば地方都市のロードサイドで物件を探す時、国道沿いなら月商900万円が見込める。しかしコメダはそこではなく、国道からは絶対に見えないような、何本も奥まった道路沿いに出店を考えます。この場所だと売上は月800万になりますが、地方都市といえど、国道沿いの土地とそこから奥まった場所とでは、賃料が月額で20万円以上も違う場合もある。20年間払うと、差額は4800万円になります。これを無駄にFCオーナーに払わせないことが、コメダの商売なんです。


▲出店立地にも独自のスタンスを持つ

――とても長いスパンで店舗経営を考えているのですね。


臼井 FCオーナーが安定的に収益を出していってもらわない限り、本部の我々は存在しないということです。やはり創業者の加藤太郎さんは偉大なビジネスモデルを作った。私自身は海外でも仕事をして、ジャパニーズビジネスマンとか言って飛び回っていましたが、今考えると、自分はふらついていたなと反省しています(笑)。その点、コメダのビジネスモデルは地に足がついている。恐れ入りましたという感じです。

コメダでは、メニューの基本となるコーヒーやパンを始めとした食材の大部分を、各店舗が本部に発注する契約となっている。本部側から見れば、食材の卸は全売上の約7割を占める中核の事業だ。しかし、使用するすべての食材を本部から購入するという縛りは、あえて設けていない。ここに本部とオーナーとの独立した関係性が見える。

Fコストはオーナーとの知恵比べ 食材購入をあえて義務化しない


――フードの材料はすべて本部から購入するのですか。


臼井 本部が一括で購入し、各店舗に配送するセンター方式は、安定供給できるというメリットがあります。しかし、地元の八百屋さんの野菜の新鮮さや安さを選ぶ店舗もある。店舗オーナーは非常にスマートですから、価格の推移を見ながら、「あっ、今は八百屋さんで買ったほうが安い」って動きますよ。さすがだなと。


――では、すべての食材を本部から購入するという縛りはない?


臼井 当社は上場しているので、市場に対して売上を最大にすることを義務と考えるなら、縛ったほうがいい。でもそれをやっちゃうと、血がよどむというか……。私は基本的にそういうのは嫌いなんです。ですから、ここはもうオーナーとの知恵比べですね。それなら本部はもっといいものを安く仕入れる努力をする。そういう競争原理が本部と店舗オーナーとの間にも働くのも、コメダの強みです。喫茶店はみずから毎日店に立つ入店型のオーナーが、自分の食い扶持をかけてやる商売。店の中でもっともマスターが偉いような喫茶店が、一番うまくいくんです。「本部の言うことだから聞かなくては」というオーナーだったら、これはうまくいかないと思います。

コメダの繁盛店では、モーニングの時間帯に200人近い客が来店しても、熟練したスタッフが1人厨房に入れば、あとはフロアスタッフ2人で回すことができるという。このように少人数でオペレーションが成立すれば、Lコストが減り、利益がより残るようになる。しかしそのためには、オーナーによるスタッフの能力育成と、スタッフ間のチームワークが不可欠だ

――Lコストの削減の重要性をどのように説明しますか。


臼井 私はオーナーになる人に初めてお会いする時、「いちばん難しいのは人を育てるということで、うちはお手伝いできません」と言うんです。人の3倍の仕事ができるスタッフを育てて、しかも長いこと辞めずに働き続けてもらえば、何人の人件費が削れるか。F・L・Rの中で、フランチャイジーがコントロールできるのはここだけ。ここを10%コントロールできるかどうかで、月商800万円とした時に80万円手残りが出るかどうかの違いになると話します。


――Lコストは30%程度が目安ですか。


臼井 新しい店舗だと30%を切るのは難しいですが、巡航速度になれば、30%ちょっとでいくようになります。名古屋のある店舗は、オーナー自ら入店して20%台で回している。そもそもコメダのオーナーには変わった人が多いんですが、あるオーナーが言うには「臼井さん、コメダの店をつぶすのにはどうしたらいいかわかる?」と。何ですかと聞いたら、「そりゃあ店に行って、〝エビフリャー、エビフリャー〞って、エビフライを頼み続けたらその店は潰れるよ」(笑)と。確かににフードコストは高いし、手間もかかりますから。一方、あるオーナーは「本部は新しいフードを出すのを止めてほしい。うちはコーヒーだけ売っていたいんだと。そりゃ、コーヒーだけ出していればFは落ちて儲かる店になりますから(笑)。そういう、自分のお財布から諸経費を払っている入店型のオーナーの真剣さは、企業の一部としてFCを運営しているサラリーマン店長にはない覚悟だと思います。


全国1000店舗を目指して積極的な店舗展開を進め、現在は900店舗を超える規模となったコメダ。コロナ禍で物件は出てきているものの、今後の出店は慎重にするという。また、コメダは伝統的に個人オーナーに支えられてきたことから、今後も個人オーナーを増やしていく方針だ。



今後の出店は「人がどう動くか」で判断 個人オーナー店舗を拡大したい


――今後の出店計画は。


臼井 実は、まだ未定です。ポストコロナでは人の流れが変わると思っているので、以前はいい場所とされてきたところも、テレワークが増えるとどうなるか。我々は「くつろぐ、いちばん、いいところ」をキャッチフレーズにしていますが、その中の〝ところ〞の場所が、これまでとはちょっと変わってくると思っています。


――900店舗のうち、1店舗のみを経営するオーナーはどれくらいですか。


臼井 373人のオーナーのうち、1店舗経営は189名。2店舗経営が83名、3店舗が28名です。10店舗以上のオーナーは5人くらいですね。最大では29店舗経営のオーナーもいますが。


――さきほど「個人オーナーを増やしたい」とおっしゃいましたが、その理由は。


臼井 これも創業者の加藤さんの方針で、メガフランチャイジーをあまり持たないと。コメダの強さは入店型のオーナーが自分の食い扶持をかけて勝負するところ。コロナ下でもなんとか数字が出せていたのは、オーナーが真剣にやってくださっているお陰です。客足が遠のいていた3月・4月、ある店では、昔から一緒に仕事をしているパートやアルバイトスタッフが自発的に「私たちもシフトを減らしますから、一緒に頑張っていきましょうね」と言ってくれたそうです。そういう独立したオーナーの皆さんに支えられている本部であることをゆめゆめ忘れないように、といつも社員にハッパをかけています。



“個人オーナーの経営意欲をいかに高めるか” 常連客を喜ばせられるひと工夫が肝

先ごろ発表されたコメダホールディングスの2021年2月期第3四半期決算によれば、コラボメニューやシロノワール半額キャンペーンにより、卸売売上は前年比90・2%まで改善した。今後のさらなる発展のために必要な、「〝コメダ流〞の進化と継承」の方法とは。

〝コメダ流〞はマクドナルドの逆張り 標準化しないことが大きな価値に


――臼井さんの経営方針には、以前に在籍された日本マクドナルドで学んだことも導入されているのですか。


臼井 いや、私はマクドナルドで学んだことの逆張りが多いかな。あそこはすべてを標準化するというモデル。でも21世紀の日本で、どこでも同じ規格、同じ値段のビッグマックが食べられることはそんなに価値はない。逆にコメダのように標準化をしないことが今の商売の価値だと思っています。たとえば地域に店が2つあって、一方のオーナーは人相が悪くて仏頂面。一方はニコニコ愛想のいい女の子がいて、常連客の自分には規定量よりちょっと多く注いでくれるような気がするとか、シロノワールは3回半巻きが規定だけど、うちの孫にはいつも4回半巻いてくれるとか(笑)。そういうのは常連客に対する商売の基本。その2店舗のコーヒーが同じ価格の方がおかしいじゃないですか。


――顧客は「自分のためにやってくれている」と思えると、よりその店舗に愛着が湧きますからね。店舗にとっても独自裁量があるのは色んなことにチャレンジしやすい。


臼井 だから店舗オーナーには、地域の中で不当に安くすることは止めてほしいけど、他店以上の価格で売れる自信があるんだったら、価格を上げてもらってかまわないと言っています。今、コメダの1杯のコーヒーの価格は430円から700円まである。同じ商圏の中で、オーナーごとに一生懸命に知恵を巡らせて戦っている。その強い意識を持つことで、地元で常連のお客様を増やしていけると思っています。


――奇策はなく、あくまでも日々の地道な取り組みが実を結ぶと。


臼井 その中でベースになるのはやはりお店のQSC(Quality:品質、Serv ice:サービス、Cleanliness:清潔さ)。「くつろぐ、いちばん、いいところ」としてお客様にコメダを選んでもらえるような価値を、これからも積み重ねていきたいと思っています。


(前編はこちら)




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