世の中の流れと逆を行く経営戦略を推進 新設抑え、既存施設のリニューアル工事に注力

最終更新: 2019年8月1日

エスクリ(東京都港区)



渋谷 守浩 社長(53)

 1966年6月生まれ。奈良県桜井市出身。建築専門学校を卒業後に家業の建設会社、渋谷(奈良県桜井市)に入社。専務取締役を経て、2008年に4代目社長に就任。不動産の有効活用提案や一般住宅、公共工事などを幅広く手掛ける。その後、エスクリからのM&A提案を受け入れてグループに参加。現在、エスクリグループの代表を務めながら、渋谷の代表も兼務している。

 華やかなイメージで、憧れる女性が多いブライダル業界だが、近年は少子化や晩婚化、結婚に対する価値観の変化などの影響を受け、市場規模は縮小している。

しかし、そんな中で独自の経営戦略のもと成長を続けているのがエスクリ(東京都港区)だ。2019年3月の売上高は、約333億円に達した。創業者の岩本博会長からバトンを引き継ぎ、独自の経営感覚でグループを牽引する渋谷守浩社長を直撃した。

結婚式でマイルが貯まる 業界唯一のサービス


——市場規模1兆4000億円と言われているブライダル産業ですが、近年は少子化などの影響もあり、縮小が続いています。

 数字だけを見れば確かにそうですが、我々はそれをあまりネガティブに捉えてはいません。なぜなら、これは自然の原理原則に基づいた動きであり、我々の業界だけに限ったことではないからです。例えば金融業界では、今や地銀の6、7割が赤字という事態に陥っていますが、これも時代の流れによるもので、キャッシュレス化が進み、クレジットカードの利用率が上がったことで、現金を持ち歩かない人が増えた結果です。

——業界を取り巻く環境は厳しさを増していますが、一方でコンパクトな結婚式や海外でのリゾート婚のような新たなトレンドも生まれています。

 市場の縮小を時代の流れだから仕方ないと言って受け入れることは簡単ですが、それを認めてしまうと我々は本業をやめるしかありません。新たなトレンドが生まれているのであれば、時代の流れに合わせて本業をカスタマイズしていけば良いのです。我々が生き残る道はそこにしかありませんし、それができなければ消えるか他に吸収されるしかありません。


——具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。

 

 我々が特にこだわっているのは、理にかなったものを仕掛けに行くということです。例えばその一つがマイルです。我々の施設で結婚式を挙げて頂くと JAL、もしくはANAのマイルが貯まるのです。今まで結婚式でマイルが貯まるなんてことは誰も考えていませんでしたが、日本で唯一、我々だけがこの取り組みを行っています。 ANAとは2016年12月に、J A Lとは昨年業務提携しました。式の単価が400万円前後ですから、結婚式を挙げれば海外旅行の旅費分くらいはマイルが貯まります。実際、結婚式のお値段を安くするよりも、こちらの方がお客様には喜ばれます。


——キャラクターとのコラボレーションも、エスクリの特徴の一つだそうですね。

 

 ディズニーやサンリオ、ポケットモンスター、モンスターハンター、最近ではサマンサタバサなど、色々なキャラクターやブランドとコラボレーションしています。数は業界の中で一番だと思いますよ。少し前まではどちらかというとキレイで美しいウェディングが好まれましたが、最近はエンターテイメント性や楽しさを求める方が増えています。ここの部分を外さずに追求していけば、まだまだ結婚式に対する興味は薄れないと思います。


——今年、ハワイに直営の式場をオープンしました。昨年は台湾にインバウンド用の事務所を出すなど、ここにきて海外事業に積極的に取り組んでおられます。

 私は"世間の見方とは逆を行く"というのを、経営方針の一つとして掲げています。だから他社がこぞってハワイに進出していた時期には、あえて行くのを避けていました。そもそも日本で生き残るのさえ大変なときに、リスクを負ってまで打って出る必要はないでしょう。

 しかし今は状況が変わってきました。どこもハワイでは苦戦していて、 安売りや撤退を始めています。それならば我々は行こうということで、満を持してハワイに施設をオープンしました。業界では「何で今なのか」 という声も多いようですが、私は商売とはそういうものだと思っています。流れを大切にしつつ、攻め方も考えなければなりません。

 我々の年商はまだ約333億円で、大手と比べれば小さな規模です。しかし、業界の中で300億円を超えている会社がどれだけあるのかと言うと、数えるほどしかありません。我々クラスでトップ5に入るのだから、攻め方さえ間違わなければ十分に勝てる余地はあります。あとは経営判断さえ間違わないように攻め抜くだけです。


契約社員を廃止

働き方改革に注力


——職場環境の改善にも積極的に取り組んでいます。特に女性の働き方改革については、「えるぼし」認定を取得するなど、高い評価を得ています。

 

 これについては世の中の流れ、世間の要望を大切にして取り組んでいます。我々のサービスは社員あってのもの。だからスタッフをないがしろにしていたらもう明日はありません。株主のみなさんやお客様にそっぽを向かれるのは困りますが、それと同等かあるいはそれ以上に社員にそっぽを向かれるのも困ります。だからこそ働いているスタッフが、我が社にいることに誇りを感じてもらえる、あるいは感謝してもらえるように知恵とお金を使いながら取り組んでいます。

 

 私が社長になってから契約社員も廃止しましたが、これも非常にインパクトの強い改革でした。そもそも私は契約社員制度自体の意味がよく分かりませんでした。社員なのに正社員ではない、では何なのか。聞けば聞くほど会社に都合の良いことばかりで、まったく当の本人たちのためにならない。だったらやめてしまおうと。当時、契約社員は1100名中100名いましたが、全員を正社員にしました。これは沸きましたね。その分、管理本部は大変でしたが、スタッフのモチベーションを上げることができたので無駄ではなかったと思っています。他にも時短勤務や託児所の創設など、コストはかかりますが、スタッフに喜んでもらえるいろいろな仕組み作りを進めています。


経営不振施設のM&Aを視野


——ハワイの施設を除き、最近は新設を控えている印象です。一方で既存施設のリニューアルには力を入れていますよね。

 

 今は工事費がとにかく高騰しているので、東京オリンピックまでは新規出店を控えようと思っています。数年前と比べて1・5倍近くしますから、無理して出す必要はありません。それよりも我々も15年、20年とやってきた中で、古くなって時代に合わなくなった施設も増えていますので、こちらのテコ入れをしようと。新築に10億円かけるなら、1ヵ所1億円のリニューアルを10億円やった方が、今は良いと判断しています。もちろん我々も上場企業ですから、「次はどこに出すのか」と期待される投資家の方の心境も理解しています。それでもあえてそうしないのは、間違ったお金の使い方をするのが一番まずいと考えているからです。今はとにかくリニューアルを最優先しています。


——渋谷社長はエスクリの代表を務める一方で、建設会社の社長も務めています。エスクリの独創的な経営戦略は、業界出身者ではないからこそできる既存の概念に縛られない自由な発想によるところもあるのではないでしょうか。

 確かにそうかもしれませんが、 私は商売は所詮、魚を売るのも車を売るのも新聞を売るのも基本は全部同じで、商品が違うくらいにしか考えていません。ウェディングもそうで、商売という意味では何も変わりません。そもそも30年前には今のようなウェディングはなくて、みんな互助会に行って玉姫殿で結婚式を挙げていたわけですから。ハウスウェディングやホテルウェディングだって本当に増えたのはこの15年とか20年の間です。だから歴史は非常に浅い。それでも色々と変わってきている。だから何の縛りもない自由な発想を持った人間の方がうまくいくことも多いと思います。もちろんそれが弱みになることだってあるでしょうから、そこのところは気を付けないといけません。


――当面は新設については控えるということですが、中長期的なビジョンはありますか。

 

 正直なところ、今はそれを言いにくい状況ですよね。というのも、為替も安定していなければ消費税も結局のところどうなるか分からない。 オリンピックが間近に迫り、さらに万博も控えているこの時期、本来であれば日本は株価がどんどん上がって一番良くなっていないといけないの。しかし、現実はメガバンクも地銀も業績は悲惨で、好景気というのは程遠い状況です。こんな中で中長期のビジョンを言ったところ、リップサービス程度にしかなりません。ただ、我々としてはもちろん色々考えていることはありますので、目には見えないけれど可能性に投資してもらえるような企業でありたいと考えています。


――地方では経営不振に陥る施設が増えています。そうした施設をM&Aして地方展開を強化する可能性はあるのでしょうか。

 地方の施設は良い立地に建っているものが多いので、うちで立て直せる自信があるものについては検討する余地は十分にあると思います。ただし、土地には土地の文化がありますし、人の考え方や方言も違います。うまくコントロールする必要があるでしょうね。

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