ステーキ王が迎えた正念場、低価格と逆行した付加価値戦略に活路

いきなり!ステーキ (ペッパーフードサービス:東京都墨田区)


一瀬 邦夫 社長(76)

Profile いちのせ・くにお

1942年10月、静岡県出身。ホテルでのコック修行を経て、70年に独立し、「キッチンくに」をオープン。36歳の頃には4階建ての自社ビルを持つまでに成長した。94年に「ペッパーランチ」の展開をスタートさせ、海外にも進出。BSE問題などの苦難に直面するも、危機を乗り超えて、「いきなり!ステーキ」を立ち上げた。

 昨年、 外食業界でも類を見ない年間200店舗の出店を達成した「いきなり!ステーキ」。高稼働・高収益モデルのビジネスモデルで442店舗のチェーンまで成長した同ブランドだが、一方で昨年は出店来初となる既存店の対前期比割れが発生するなど、その成長に黄色信号も点った。だが同社は今年も年間210店舗の出店を計画するなど、その勢いを止めない。この強気な計画の勝算について、同社の一瀬邦夫社長に話を聞いた。


——昨年は年間200店の出店を達成するなど、一つ大きなインパクトを与えました。達成した今、一服感はありますか。


一瀬 今年も積極的に出店していくことには変わりないですが、一服感というか、少し流れが落ち着いた感じはありますね。 「いきなり!ステーキ」はランチタイムでも1500円、夜は2000円以上の客単価であるため、いくら景気がいいと言っても、あれだけのお客様が怒涛のように来続けることはちょっと考えづらい。落ち着くのは当然と考えています。

 ただ、都心部とロードサイドでの出店には、明暗が分かれました。都心部は売上の上がっている店舗もありますが、ロードサイドはちょっと落ち込んでいる。理由は出店してはいけないところに出店をしたカニバリによるもの。長野県だけで10軒以上、千葉県でも30軒以上あるわけですから、店が近所にできてしまうこともある。また地方の場合は、ああいうステーキ店がないから最初はみんな珍しがっていくのですが、2000~3000円するものですからそんなにしょっちゅうは行かない。


——オーバーストアによる影響が出てきたわけですよね。


一瀬 ただ一方で、得られた情報もあります。それは以前と比べて、家族、特に小さい子を連れて食べにくるケースが増えているということです。これは「ステーキが食べたいから連れて行って!」という子どもというよりは、そのご両親である若い夫婦自身もステーキが食べたいから来ているように見えます。時代が変わればニーズも変わる。ニーズも変われば店舗もスタイルも変わる。 「いきなり!ステーキ」もテーブルの上の仕切りを取ってフラットにし、家族が団らんして食事を楽しめるような時間を作っていく。

 また地方では、大勢で飲み食いする宴会の場所と言えば昔から地元にある居酒屋に行ってしまいますが、我々がそこに働きかけ、 「ワインとステーキで宴会ができる」という選択肢を意識してもらう。こうした施策がこれからのテーマだと思っています。


——「一人ステーキ」でここまで知名度を上げた分、利用者層を広げるのは簡単にはいかないと思いますが。


一瀬 現在、当社は47都道府県にすべて出店しています。そこで強みとなってくるのが、マスでの集客方法。すでに3月18日からスタートしていますが、現在テレビコマーシャルを行っており、 「お近くのいきなり!ステーキでお待ちしています!」と言える会社になりました。これは2~3年前と大きく違います。

 そしてマス広告を使うのと同時に、自社内で「広告マップ」を作り、国内の店舗のどこのお店が結果的に広告の反響が良かったかを分析する。ロードサイドの店舗売上があまり良くなければ、ロードサイド店を中心に広告を打っていくというように、費用対効果を高められるように効率的に露出を図っていける。そうすれば状況は変わります。


経費削減より売上向上


——FCパッケージとして高収益を出せるモデルは非常に魅力ですが、反面、ステーキの原価による客単価の高騰は心配な点だと思います。


一瀬 ここ5年の原価率は約60%と高い水準でしたが、今はだんだん良くなってきています。ですから商品の値下げをする方法もあると思いますが、100円程度の値下げでは喜ばれない。少なくとも200~300円は下げなければいけないと思っています。その場合、残りの100~200円分の何かを付けて差し上げることができれば、お客様はその商品に価値を見出してくれるはずです。

 私はその一つがサラダだと思っています。現在ランチで提供しているサラダは30gですが、もうちょっとあっても良い。ですから夜のセットサラダと同様60gにして、同時に野菜の種類も変え、オニオンを外してカボチャやキャロットにする。野菜に変化を持たせたり、たっぷりと食べていただけるように、目に見える形でお客様に還元し、より魅力を出していくかということが大事なのです。


——費用の削減という意味では、オーダーのタッチパネル化や券売機の導入などもありますが。


一瀬 タッチパネルの導入による人件費の節約効果は間違いなくあると思いますが、一方でタッチパネルにしたことでお客様が増えて売り上げが上がるかというと、そこには貢献しません。下がってきている売上を何とかしなければならないからタッチパネルを入れて人件費率を減らす。けれどもそれによってお客様から得られる売上を減らしてしまっては元も子もありません。やっぱり私たちの商売は、お客様を増やすためにどうしたらいいかということをいつも考えていなければならないと思うのです。

 券売機の導入についても同様です。当社の「ペッパーランチ」は、より多くの若い方に1週間に2回も3回もステーキを食べてもらえるように、あえて650円の価格設定をしました。当然、原価も高いから、人件費を削減することを考える。そこでカウンターだけにして、当初はお客様には券売機で商品を買っていただくことで成功しました。しかし昨年、それまで66カ月続いた既存店の昨年対比売上率が割れました。今はそれも回復して6月から3月まで連続して売上が向上していますが、その理由は券売機を止めたことです。券売機を止めたことで、従業員がお客様にサジェクションできる。人間が人間にサービスすると、魅力ある商品をサジェクションしてくれる。人が勧めるからもう一品頼むのであって、タッチパネルや券売機だと、周りの話に夢中になっていたりして、なかなか自分で追加の注文をすることがない。


——経費を削減するというよりは、その分の力を売上向上に回した方がいいと。


一瀬 そうすることで、お客様の満足度も上がります。ですからこれはお客様との心理戦の世界だと思っています。店舗が儲かることを考えるのではなく、お客様が儲かることを考えるということです。そうすれば来店のチャンスがまた増え、結果的に当社も潤う。ビジネスはお客様に勝ってもらうことで、自分も勝つことができる。 「時代に逆行した会社」や「世の中ではみんなそうやって人件費を削減している」という声もありますが、肝心なのは人件費を削減するよりも人が大勢いる環境を作る。そして人が辞めない環境を作る。そのためには給料もしっかりと払っていける会社になることが大事なのです。


——実際、今は人材の採用難や人件費アップに悩む外食企業も多いです。


一瀬 そこは非常に重要な問題です。おかげさまで当社は、昨年6.4%、今年は6.18%と2年連続で給与のベースアップを行うことができました。こうした待遇面での体制作りは非常に重要です。また毎年社員と旅行に行っていますが、そこで社員同士のコミュニケーションを取ってもらうことも私の願いです。そうすれば店舗異動があった時でも、みんな「やぁやぁ」で仲良くできる。みんな同じ釜の飯を食っているわけですから。今年は1000人規模の旅行にイベントになりますが、こうすることで社員同士が仲良くなれば、会社も明るくなる。そしてこの雰囲気がアルバイトの方に伝わっているのか、当社はアルバイトから社員になる方も多いです。

 また先日、ある外食企業から面接に来られた方がいました。 「どうしてうちに来たの?」と聞いたら、以前の会社の社長が「もう出店しない」と言ったようなのです。それでは先がないと思って、出店の勢いがある当社に来たというのです。このように会社の姿勢や雰囲気というのは、働く方に非常に大きく作用します。


“単純値上げは愚の策

いかにお客様にサジェクションできるか”


業務委託型のFCを開放


——2019年は「いきなり!ステーキ」で年間210店舗の出店を計画しています。勝算は。


一瀬 新規のFC加盟も行っていますが、一方で「いきなり社長システム」という業務委託型のFCモデルを積極的に打ち出しています。これは約3年前から社内独立制度として行っていた「社長誕生システム」を対外的に出したものです。当社の直営店で減損兆候な店舗が対象で、加盟金150万円、保証金150万円で経営者になってもらうというものです。昨年から開始していますが、これまで31名の方がこのシステムで経営者になっています。


——それまで収益化ができていない店舗を引き継ぐのは、なかなか成功しづらいのではないのでしょうか。


一瀬 このモデルの肝は、効率性を高める点にあります。先ほど直営店を引き継ぐと申し上げましたが、当社の労働基準法で運営していくと労働時間も限られ、週休二日制も当たり前。社員が仕事を覚えたくても覚えられない状態になってしまいますし、人件費の負担額も重くなる。そこで、現在働いているベテランのパートさんやアルバイトさんを当社で雇用しておきながら、新しく独立して経営する夫婦のお店で働いてもらうようにする。

 するとオーナー夫婦は朝は少し早めに行って二人で掃除をし、ランチタイムになったら2名のパートさんやアルバイトさんに来てもらえば、十分にお店は回せます。そして昼間のアイドルタイムに奥さんが休憩し、夜は21~22時頃には客足が落ち着くので、また夫婦で運営する。無駄な時間に人員を入れないことで、利益が出せるのです。そしてこの人材の事務手続きなどはすべて当社で代行してあげることで、オーナー夫婦は経営に集中することができます。その上で、オーナーには委託手数料の最低保証料として、30万円を保証しています。普通、膨大な借金をして独立したなら、週休二日のペースで働いていたら潰れてしまいます。でもそうならないように、初期投資の大幅軽減と給与保証をし、尚且つお店を持てるようにしているのです。


——いきなり!ステーキやペッパーランチも含めて、当分出店は止めないと。


一瀬 これまでは客単価が2000~3000円もするにも関わらず、あれだけの人が行列にとなって並んでくれました。でも今は以前とは違う。ただそうなった時に、 「これはこれの良さもあるんじゃないか」と思ったのです。店舗が空いているならゆっくり食べてもらうようにテーブルを広げて、一人当たりにもっとたくさん食べていただく環境にするかを考える。誕生日を家族で祝う時に予約していただければ、ケーキをサービスするなど、お客様寄りの策を考える。単純に値上げするのは、愚の策です。

 現在はPDCAサイクルを回している最中ですが、もう少ししたらそこでの策が功を奏して売上が回復していくと思います。

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