ありそうでなかった焼肉のファストフード業態、滞留時間25分で客単価は1400円

焼肉ライク

(ダイニングイノベーション:東京都渋谷区)


西山 知義 会長(53)

Pro­file にしやま・ともよし

1966年、東京都出身。不動産会社勤務を経て独立。平成8年、東京・三軒茶屋に「焼肉市、場七輪」(後の「炭火焼肉酒家 牛角」)を開業。レインズインターナショナル社長を経て2012年にダイニングイノベーションを設立。現在、同社会長。



 焼肉チェーン「牛角」の成功で一躍時の人となり、今なお外食業界において大きな影響力をもつ西山知義氏。そんな西山氏が会長を務めるダイニングイノベーション(東京都渋谷区)が、焼肉のファストフード化を目指して新たなブランド「焼肉ライク」を立ち上げた。焼肉業態を知り尽くした西山会長が思い描く成長戦略について聞いた。


キャッチーな価格設定は危険


——ダイニングイノベーションでは、さまざまな業態の外食店を展開しています。


西山 現在、グループ全体で12業態205店(4月10日時点)を展開しています。2013年にこの会社を作ってから、確実に勝てるものを選んで業態開発を進め、例えば焼鳥の「すみれ」はもうすぐ100店舗というところまできました。イタリアンの業態も順調で、全体的に土台が整ってきたという段階です。これからは店舗を増やす局面だと考えています。


——人手不足や原材料費の高騰が激しい外食ビジネスで、成功を収めるために気を付けなければならないことは何でしょうか。


西山 外食ビジネスに限ったことではありませんが、人件費や採用コスト、原材料はこれから上がることはあっても下がることはないでしょう。新たにビジネスを始めるのであれば、これに備えたモデルにしておかなければなりません。この前提に立って、僕が最も気を付けているのは商品の値段をキャッチーにし過ぎないようにすることです。例えば大手牛丼チェーンの商品の価格は、世間一般に広く浸透しています。価格を訴求して集客しているのだから、当然ですよね。しかし、あまり価格を前面に押し出し過ぎると、値上げをした時に想像以上に世間が過敏に反応してしまいます。例えごくわずかな値上げであっても、世の中の人は「高くなった」と感じます。いったんそういう印象がついてしまうと、客足は一気に遠のいてしまいます。そもそも、運営にかかるコストはこれからもどんどん上がっていくのだから、値上げが一度だけで済むわけがありません。そうなると品質を落とすか、量を減らして値段を下げるかしかありません。メニューミックスの利かない全品統一価格の業態は、特に影響が大きいと思います。


コストコントロールが

容易な焼肉業態


——日本は今、空前の肉ブームに沸き上がり、牛肉に限らず、鶏肉や豚肉など、あらゆる食肉の消費が伸びています。外食業界においても、肉をメーンにした業態が次々に誕生し、大きな注目を集めています。


西山 「肉は健康に良い」というイメージが定着してから、一気に注目を浴びるようになりました。特に牛肉に対する評価はうなぎ上りです。昔は「肉を食べると太る」というのが一般常識でしたが、今は「良質なたんぱく質で、糖質を取るよりも肉を食べる方が良い」という雰囲気です。 “赤身肉”や“熟成肉”という言葉も頻繁に取り上げられるようになりました。世の中もずいぶん変わったと思います。


——ダイニングイノベーションでも先日、新業態「焼肉ライク」を発表されました。なぜ流行りのステーキや肉バルではなく、焼肉を選んだのでしょうか。


西山 まずは市場性というのがあります。焼肉の市場規模はここ最近横ばいの状態が続いていますが、それでも約5300億円あると言われています。今までは一人で焼肉を食べたいと思っても入れるお店がありませんでしたが、こうした客層をうまく取り込むことができれば、もしかしたらマーケットは今より大きくなるかもしれません。一方ステーキは、大手チェーンの台頭で注目を集めてはいますが、市場規模は焼肉の4分の1くらいです。マーケットの大きさがそもそも違うわけです。

 また、ステーキがものすごく難しい業態であることも、焼肉を選んだ理由の一つです。というのも、ステーキで使う牛肉は、ただ美味しいだけでは駄目で、厚みも必要です。そのため、使える部位はサーロインかヒレ肉に限られます。実はこの2つの部位は牛肉の中でもっとも高価で、そのためステーキは原価率が高くなりがちです。安く提供することが難しいですし、利益を削って精一杯値段を下げても、お客様に安いと感じてもらえません。一方で焼肉は薄く切った牛肉を提供するので、色々な部位が使えるうえ、コストコントロールも簡単です。噛む回数も多いので、同じ量を食べてもステーキより満足感が得られます。



——「焼肉ライク」が掲げるコンセプトの一つに、 “焼肉のファストフード化”があります。


西山 外食業界では今、 「個食化」が重要なキーワードになっています。これには少子高齢化や夫婦共働き・独身世帯の増加が大きく影響していて、一人で気軽に利用できる外食店の需要はこれからどんどん増えていきます。しかし、牛丼やラーメンなど、定番のお店はあるものの、新しいものはなかなか出てきていません。そのため、最近は多くのお客様がコンビニに流れています。

 一方、牛肉を扱う業態の中でもっとも市場規模の大きいのはハンバーガー、 つまりファストフードです。焼肉はダイニング形態が圧倒的に強く、一人で食べることを想定した店舗はほとんどありません。以前、何かのデータで見たのですが、飲食の中で最も一人で行くにくいものとして、焼肉は2位に挙げられていました。今ある焼肉店も一人で入れないわけではありませんが、基本的にはテーブル席がメーンですから、お店側としても一人客ばかりだと回転率が下がって困るはずです。こうしたいくつかの事情を踏まえ、焼肉のファストフード化にチャレンジしました。


——ファストフードである以上、価格設定も重要になります。


西山 大手チェーンで焼肉を食べると、単価はだいたい3000円くらいになります。ここから逆算して安く感じる値段はいくらかと考え、1000円台で利用できるようにしました。安いものだと530円で食べられるセットもあります。牛肉は冷凍を使わずにチルド肉にこだわっています。味が全然違いますからね。


——西山会長はかつて「牛角」をチェーンし、ダイニングイノベーションでも別の焼肉業態を手掛けておられます。


西山 “焼肉”という言葉上の共通点はあるものの、 「焼肉ライク」はこれまでやってきた焼肉業態とは全く違うものだと考えています。客数も違えば客単価も違います。すべての発想は、客数をいかにして増やすかという1点に絞られます。滞留時間をできるだけ短くして、それでいてお客様に満足してもらわなければなりません。そういう頭ですべてのメニュー開発をおこなっています。


1000店舗達成は郊外店の出来次第

売上効率はラーメンの2倍、牛丼の3倍



——今までありそうでなかった焼肉のファストフード店ですが、これを実現することができた最大の要因は何でしょうか。


西山 あえて挙げるとするなら、“ロースターを1人に1台つける”という発想に行き着けたことだと思います。2人で一つ、知らない人と一緒に使って下さいというわけにはいきませんからね。


——「焼肉ライク」は直営だけでなく、むしろフランチャイズをメーンに店舗開発を進めていくそうですね。


西山 僕は今まで色々な業態の外食を手掛けてきましたが、これほどFCに向いた業態はないと思っています。とにかくオペレーションがシンプルなので、経験の有無を問わず、誰でも始めることができます。

 一番のポイントは、店舗に味を変えるような要素が一つもないことです。スタッフが店舗で行う業務は盛り付けてタレをかけることと配膳、片付け、精算のみ。肉のカットもする必要がありません。ライスも量るところから炊くところまですべてオートメーション化されています。だから研修時間も非常に短くて済みます。外国人スタッフでも3時間やればすぐに現場に出ることができます。


——すでに都心部で5店舗がオープンしています。理想のモデルを教えて下さい。


西山 場所にもよりますが、店舗は人通りの約20坪が一番理想的です。広過ぎると賃料が高くなるので、あまり大きく方が良いです。回転が早いので、常にお客様が並んでいるような状態を維持できるくらいが理想です。

 加盟対象は基本的に法人としていますが、すでに何かほかの事業を、例えばラーメン屋などをやっている方が看板替えするのも面白いと思います。というのも、 「焼肉ライク」の平均滞留時間は約25分と、ラーメン店とほとんど変わりません。しかし、客単価は約1400円で、倍近くあります。つまり、単純計算で売上は2倍になります。牛丼店と比べると3倍です。ディナータイムだとアルコール類が出るため1500~1600円になります。たった25分で客単価1400円を稼げる業態は、おそらく他にはないと思います。


——物件取得費を除く初期投資はどのくらいを想定しているのでしょうか。


西山 約3000万円です。今ある店舗はいずれもひと月あたり1000万円を売り上げていますが、商品原価率を40%以下に抑えるなど、LFコストをしっかりコントロールしているので、700万~800万円でも十分にやっていけるビジネスモデルになっています。


——年内30店舗という計画を発表されています。将来的にはどのくらいまで増やしたいと考えているのでしょうか。


西山 理想は800~1000店舗。ですがこれが実現するためには郊外にいかないといけません。郊外だと客層も変わり、ファミリー層を取り込んでいかなければならない。もちろんこれに対応できるように、2人用のロースターも用意しています。例えば今度、幸楽苑ホールディングスによるFC店として松戸でオープンするお店は、ファミリーが来ることも想定しています。色々考えてはいますが、実際にどうなるかはやってみないと分かりませんね。客単価は子供も来ることで下がるかもしれないし、夜はごちそう感が出る分だけ上がるかもしれません。人の心理を100%理解することはできませんから、その辺はあえて読まなくてもいいかなと思っています。実証した結果を受け止めて、それを踏まえて手を打てば良いんです。いずれにせよ、松戸店も含め、今後予定している郊外店がうまくいけば、1000店という目標もおのずと見えてくると思います。あえて不安材料を挙げるとすれば、回転寿司のような娯楽的要素がないことです。もしも郊~外に行かないのであれば、300~400店が現実的な数字です。

0回の閲覧

ビジネスチャンス

次なる成長を担うすべての起業家を応援する起業&新規事業の専門情報誌
 

© 2003-2020 株式会社ビジネスチャンス