「グルメ回転すし」コンセプトに93店舗 新業態起爆剤に売上200億円が目前
すし銚子丸 銚子丸(千葉県千葉市)
6000億円といわれる回転すし市場は近年、M&Aによる業界再編が進み、大手企業の寡占化が進んでいる。その中で異彩を放っているのが、「グルメ回転すし」をコンセプトに関東エリアで93店舗を展開している銚子丸(千葉県千葉市)だ。同社の2019年5月期の売上高は193億1600万円、営業利益は前年比61・5%増の9億3700万円に伸長した。今年は新業態「すし銚子丸 雅」を相次いでオープンさせるなど、直近2期の減益を乗り越えて攻めの戦略に転じている。(※2020年2月号より)

いしだ・みつる
1956年1月生まれ、東京都台東区出身。専修大学法学部卒業後、亀有信用金庫に入庫。
その後、オーケー株式会社 取締役管理本部長、株式会社ウェアハウス代表取締役を歴任し、2014年1月に株式会社銚子丸入社。同年8月に代表取締役に就任し、現在に至る。
「銚子丸劇場」を標榜し顧客とのコミュニケーションを重視
―2019年5月期の売上高は193億1600万円、営業利益は前年比61・5%増の9億3700万円と伸長しました。
石田 昨年は天候不順などの影響で来店客数、売り上げともに振るわなかったのですが、今年は既存店の売り上げが堅調に推移しました。加えてウェブ媒体などによる販売促進強化が功を奏し、売り上げだけではなく、来店客数も増加しました。客単価も堅調です。
―すし銚子丸は関東エリアでドミナント出店を進めています。100店舗も目前になってきました。
石田 昨年度は2店舗を新たに出店し93店舗になりました。当社は本社のある千葉・東京・埼玉・神奈川に特化しています。中でも千葉・東京で71
店舗を占めています。
―寿司業界全体の市場は約1兆円、その内、いわゆる回転寿司市場は6000億円といわれていますが、御社の業界内での位置付けは?
石田 ここ数年間は、スシロー・くら寿司・はま寿司・かっぱ寿司などの大手寡占化は変わっていません。一般的に当社はその次の第2グループという位置付けでしょうか。
―多くの回転寿司チェーンは、100円を原則とした価格設定ですが、銚子丸は「グルメ回転ずし」として、他社とは一線を画しています。
石田 当社の価格帯は1皿130~530円の6種類で、似たようなビジネスモデルは殆どありません。お客様の目の前で寿司を握る従来型の寿司屋を基本にしています。
―「銚子丸劇場」と称してお客とのコミュニケーションを重要視しています。
石田 店舗が劇場、店員が役者という位置付けです。人との接点を常に持つことでお客様に楽しんでいただくことがポリシーです。
―以前の回転寿司店の主な顧客は、育ち盛りの子供がいるファミリー層でした。一般の寿司屋は年齢層が高めと棲み分けができていた。しかし、この層が回転寿司に流れてきました。
石田 かつて寿司はハレの日に食べるものとして、一般の方は気軽に食べられるものではありませんでした。当社の場合、それでもハレの日で活用していただくことが多いですね。ただ、回転寿司というビジネスモデルは、過渡期に来ているのではないかと思います。実際、回転寿司は徐々に回転しない方に戻ってきています。
―業態が変わってきている。
石田 昨今の人手不足が大きく影を落としているからです。今は人をレールに張り付けることで、かえって流すロスが出ているのです。レールを無くせば、人が立つスペースに椅子が置けるようになる。
持ち帰り寿司から現在の業態へ 1998年の市川店から出店を加速
―石田社長は2014年8月に社長に就任していますが、入社までの経緯は。
石田 もともと私は地元の信用組合に勤務していまして、39歳の時にウェアハウスというベンチャー企業のIPOのお手伝いをしました。その後、大手スーパーマーケットのオーケーストアに入社してその後、2014年に今の会社に移りました。
―オーケーストアで店舗運営を担った経験が大きい。
石田 入社3か月が経過したころ、社内に管理職が育っていないことが分かったのです。トップダウンによって物事が進み、自分で考えていない。実は組織としては体をなしていなかったのです。まずはここの改革からスタートさせました。オーケーストア時代には、創業者の飯田勧社長の薫陶を受けました。
―銚子丸はまず、持ち帰り寿司で成功を収めました。
石田 銚子丸はもともと、創業者の堀地速夫さんが始めたおもちゃ屋がスタートです。その後持ち帰り寿司に業態転換し、回転寿司へと変わってきました。
現在のような店舗になったのは1998年の市川店からです。翌年、稲毛・高須店で、90坪85席で人気を博しました。この成功モデルで約20年続けてきました。
―銚子丸では「寿司を売るな、理念を売れ」をポリシーにしています。
石田 創業者の堀地さんは「お客様を喜ばせよう」が口癖でした。ですから「すし銚子丸」では、銚子港からの直入の食材を使い、店舗にはいけすを設け、その場で捌いて提供する。これは、今後も変わらないでしょう。
スクラップアンドビルドでサービスの生産性と人材資源の有効活用
―2020年5月期には売上高199億円、営業利益7億2800万円を見込んでいます。
石田 この目標を達成させるために、既存店6店舗をレーン交換や座席を増やすなどの大改装をし、集客に繋げていきます。店舗によっては機器増設するなどの中規模改装も行う予定です。昨年はセルフオーダーシステムやオートウェイターシステム、高速レーン、皿会計システムなどを導入し、機械化・省力化を進めました。今後はこれらに加えて、自動皿洗い機や食洗機など、既存設備の増設を推進していきます。
―他のエリアへの出店計画は。
石田 基本的には1都3県に集中していきます。それ以外の新たなエリアを開拓するのは難しいでしょうね。あまり圏外に出てしまうと、新鮮な食材の供給も難しくなりますし、現場とのコミュニケーションも取りづらくなる。土地勘がある場所でも、十分にマーケットがあります。
―ただ100店舗近くになると、スクラップアンドビルドも必要になってくるのでは。
石田 もちろん、不採算店舗の退店といったスクラップアンドビルドや人材の適正配置により、サービスの生産性と人材資源の有効活用を図っていきます。既存店では、売上原価や店舗経費管理の徹底、強化をより進めていきます。
―新たな業態の開発にも着手しています。
石田 新業態を首都圏中心に拡大させていきます。2018年には新業態として「鮨Yasuke 」をオープンさせました。

―大型オフィスビル内に出店するという初めてのビジネスモデルです。
石田 テナントとして出店するため店舗の大きさも25坪と小ぶりで、今後は50~60坪の同形態の店舗をあと2~3店出店していきたいと考えています。
―今年4月には「すし銚子丸 雅」を千葉と東京に4店舗オープンさせました。
石田 こちらは「すし銚子丸」の良さである本格江戸前寿司スタイルを踏襲しつつ、今の時代に合ったシステムを導入したもので、進化型姉妹ブランド店という位置付けです。1年に5店舗を出していきたい。1店舗当たりの月商2000万円、新店は1800万円ぐらいを目標にして、年商2億円を目標にしていきたいと思います。
―2018年に開始した「出張回転寿司サービス」も徐々に結果が出ている。
石田 老人ホームや結婚式イベント、企業イベント向けに行っているビジネスです。2019年5月期現在で51件、2641名の実績があります。今月は14件の受注があり、堅調に推移しています。実際のところ、企業からの依頼が多いですね。
―集客の施策の一環としては、数年前より積極的なパブリシティと電子決済の拡充を進めています。
石田 2017年12月に開始したLINEお友達募集会員は19万4000名、2018年3月に開始したショップカードは13万6000枚を発行しています。こちらも効果が出つつあります。

独自の教育機関を設けてスタッフの技術と接客意識向上図る
―今の「銚子丸劇場」を維持して出店していくには、人材の確保や教育もより重要になってきます。
石田 そのため、2018年10月には「銚子丸立志塾」という教育機関を開校しました。全100講座で構成しており、動画によってレベルに合わせて勉強できるようツールを体系化しました。人材の教育は決して生産性の高いものではありませんので、一人で手軽に学べるようにツールをシステム化しているのです。優秀な人材の確保や定着率向上を考えれば、非常に重要なものだと考えています。
―労働環境の改善にも積極的に取り組んでいる。
石田 昨年12月には働き方改革の一環として、店舗ごとの売上予測や人員体制を考慮した上で、年末年始の営業時間の短縮や休業日を設けました。今年の5月にはゴールデンウィーク後の休業日も設けました。また、スタッフのモチベーションを上げるために、入社2年以上経過した社員に対して、ストックオプション制度も導入しています。
―外食ビジネスはやはり人材に負うことが大きい。
石田 当社の目指すべきものは、「町場の寿司屋」です。優秀な人材を一人でも多く育て、店の主となってもらう。そのためには様々な取り組みを進めていきたいと考えています。