【ありがとうサービス】リユース・フード・地域創生の3つの事業を展開

公開日:2025.04.22

最終更新日:2025.05.07

※以下はビジネスチャンス2025年6月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。

トータル144拠点で年商100億円の大台へ

 ありがとうサービスは四国の愛媛県を拠点に、リユース事業、フードサービス事業、地方創成事業の3つの事業を展開している上場企業だ。同社の井本雅之社長兼会長(以下 : 社長)は、父親から引き継いだ会社の倒産危機に直面しながら、フードとリユース事業FCの多店舗展開により、会社を蘇らせることに成功した。ご縁を大切にし、上場まで果たした井本社長が重要視するのは、「ありがとう」の経営哲学だ。

お客様から、ありがとうを言っていただく

自ら考え主体性を持って働く社員に

 同社は愛媛を拠点に、九州、沖縄でリユース事業を展開しており、ハードオフ34店舗、オフハウス30店舗、ホビーオフ店14舗、ブックオフ21店舗、計99店舗を展開。
 さらに、海外にも進出し、タイとカンボジアで計9店舗を出店しており、リユースは計108拠点。フードサービス事業では、モスバーガー13店舗をメインに、他FCブランド、自社業態合わせて26店舗を展開している。
 また、近年力を注いでいる地方創成事業では、拠点の愛媛で温泉施設、宿泊施設などの運営も手掛けており、リユース・フード・地方創成3事業によるトータル拠点数は144か所に上る。
 東証スタンダード市場に上場しており、2025年2月期の業績は現予定で売上高が98億5000万円と100億円の大台に迫り、経常利益は8億3500万円を見込む。売上の構成比は、リユース事業が73%、フードサービス事業が24%、地方創成事業が3%だ。また、海外売上比率は全体の11%を占めている。
 同社は「ありがとうサービス」の社名の通り、「お客様から、ありがとうを言っていただく。」ことを経営目的とし、社内の価値観の浸透に注力してきた。「世のため人のため」という経営理念に基づいた行動指針や座標軸を細かく設定。文章や表にして可視化することで、社員の意識に根付かせてきたという。
 また井本社長は、社員教育の一環として毎日手書きの「社長メッセージ」を全社員へ配信。会社の方向性や、人として大切にしたいことなどをつづっているという。現在、社員は約270人、同社で「パートナー」と呼ばれるパート、アルバイトは2000人弱在籍しており、各現場での朝礼で社長メッセージが読み上げられている。
 井本社長は、従業員と直接顔を合わせる機会を大切にしており、年に1回行われる社員面談では、現在でも、井本社長自身も面談をしているという。
「従業員にはどんな状況でも、自分で考える力をつけてほしいと考えています。何かあった時に『社長に聞こう、本部の言う通りにしよう』では、組織として成長ができません。他人におんぶに抱っこの会社では潰れてしまいます。そのため、従業員が自ら考え、主体性を持って働いてほしいのです。従業員によく言うのは、どうやったらいいかを聞く前に、自分は今どうなんだと、どうあるか、そっちを先に考えやってことです」

会社の苦境下でブックオフに加盟

「家賃支払い分ぐらいどうにか…」

 2000年に設立された同社のルーツは、井本社長の父親が創業したスーパー「今治デパート」に遡る。当時、日本の小売業界のガリバー企業であった「ダイエー」の中内㓛社長が唱えた〝オレンジ合衆国構想〟に共鳴して、そのFCに加盟。1980年代には1000坪クラスの大型店を10店以上出店。ほかに「ライフショップ」の名前で100坪程度の小型スーパーを40店展開していた。
 また「トマト&オニオン」「モスバーガー」のFCに加盟し、フードサービス事業もスタートするなどで、年商150億円を超える企業に成長を遂げていた。
 井本社長は早稲田大学卒業後、船井総合研究所の創業者の船井幸雄氏に師事し、その元で働いていた。だが、父親が病を患ったため、家業に参画。その後父親が死去したため、38歳で事業を継ぐことになった。
 ところが、ちょうどその頃、大規模店舗法緩和の影響に加え、バブル景気の崩壊が重なり、会社は深刻な業績不振に陥った。当時、売上は170億円ほどあったものの、億単位の赤字を出していた。
 さらにそれまで大型の不動産を購入して店舗化していたため、借入金は155億円にまで膨れ上がっていた。その多額の借入金の返済に追われ一気に首が回らくなったのだ。
 業績不振の店舗を安値で売却して次々閉める一方で、テナント借りしていた店舗もあった。そちらの契約期間の家賃はどうにか払わなければならない。そんな苦境下で、井本社長がたまたま新聞記事で見つけたのがブックオフだったという。
「とにかく家賃支払い分ぐらいはどうにかならんかな、と。大変失礼な話ですが、『これはお金が掛からないぞ』と目を惹かれたのです。定価の1割で買って、定価の半値で売るだけなので、素人でもできそうだと、正直加盟は不純な動機でしたね」

同社のリユース事業成長のきっかけとなった松山駅前店

ハードオフの大型出店で勝機を掴む

「勝負させて」と部下が進言

 1995年にブックオフ1号店をオープン。しかし、そんなつもりで始めたため、大した売上も利益も出なかったというが、その加盟が結果的に会社の再生に結びついた。同社の危機的な事情を知ったブックオフの坂本孝社長(当時・創業者)から、ハードオフの山本善政社長(現:会長)を紹介されたのだ。
「新潟にあるハードオフ本部に、決算書を持って出向きました。それを見た山本社長は『借金額は10倍だが、ウチが苦しかった時とよく似ている。なんとかなるかも』といってくださりました。そこでその場で加盟を希望したのですが、最初は『基本的に家電店しか加盟できない』と断られたんです。そこで『家電やってます。スーパーの4階で家電コーナーやってますから』と言い張って(笑)、なんとか加盟にこぎつけました」
 1997年にハードオフ1号店をオープンし、その後も小型の店を順調に増やしていたものの、最初のうちはなかなか状況は好転しなかった。しかし、2000年に350坪の大型店を出店したことで、潮目が大きく変わったという。「それまで安い家賃の場所でしか出店してこなかったのですが、従業員から『絶対に伸びる業態なのに今の立地条件で出店していたら先がありません。勝負させてほしい』と言われたのです。松山駅前に350坪の紳士服店の跡地があったのですが、家賃は450万円。とても出店できません。しかし、その家賃が250万円まで下がっているのを従業員が見つけ、再度出店を打診してきたのです。その熱意に押され出店すると、大当たりしました。従業員が偉かったんですよ」

本部の期待に応えるため上場果たす

一番驚いた社長室の天秤ばかり

 その後は順調に「ハードオフ」「オフハウス」「ホビーオフ」、そして「ブックオフ」のリユース業態の出店を重ねる一方で、フードサービス事業も拡大。「モスバーガー」などのFC参加のほか、オリジナルブランドの直営店も多数出店している。
 2000年には新会社MGS(現 : ありがとうサービス)を設立した。社名のMGSは明・元・素(明るく・元気に・素直な)の意味で付けたという。そして、グループの再編などを経て、現在の同社の体制が出来上がったという。
 そして2012年、同社は株式上場を果たした。ブックオフの坂本社長、ハードオフの山本社長から「加盟社が上場を果たしたら本部冥利に尽きる」と言われたからだ。その期待に応えたいと上場へのチャレンジに踏み切り、見事成し遂げた。
 つい15年前、借入金返済に追われ、先行きの見通しも立たなかった当時とは様変わりした。しかし、それも縁に恵まれた〝出会い〟によるものだと井本社長は語る。
「ハードオフの山本社長とお会いして一番驚いたことが、社長室に天秤ばかりを置かれていたことです。本部と加盟店は平等な立場だと仰っており、こんなことを言ってくれる本部は初めてでした。それくらい平等な考え方なんです。こういう考えの人と一緒に仕事をしたいと心から思いました。『あなたたちが加盟してくれて助かる』と言われたら、『いえいえ、もっと頑張らせてもらいます』という気持ちに自然となりますよね」

店舗拡大は加盟店の責任

 同社の全事業の店舗や施設数は合計144カ所。そのうちの約60%が沖縄含めた九州一円で展開するリユース業態だという。
 井本社長は愛媛でブックオフ、ハードオフを数店展開をした後、今後どのエリアで展開するべきか、両本部にお伺いを立てたという。すると本部からは最初、東京と大阪を勧められた。だが、愛媛の人口は約150万人。そんな地方からすると、東京や大阪はある意味海外のようなもの。また、今後出店を希望する加盟店がどんどん出てくることも考えられる。テリトリーのことで加盟店同士で調整が必要になることは、できるだけ避けたいとの思いもあったため、愛媛と似たような地方都市の九州で展開を広げていくことに決めた。そして九州一円に出店をした後、まだハードオフが沖縄に出ていないことを知ったため、沖縄にも出店していった。
 また、今後もFC本部の拡大方針に合わせて増店することを決めており、井本社長はエリアでのシェア率を上げることが加盟店の務めだと話す。
「愛媛にも九州にもまだまだ出店余地は十分にあると思います。出店させてもらっている以上、我々は常に拡大していかなければなりません。我々が出店している地域が全体の大体10%の人口のため、FC本部が国内だけで2000店舗展開を目指すなら、当社は200店舗の展開をします。それがFC加盟をさせてもらっている加盟店の責任だと考えています」

フードFCの「モスバーガー」は愛媛と高知で13店展開

海外展開と地方創成事業を重点化

社員の提案から始まった海外事業

 同社が海外展開を始めたのは2016年。カンボジアに子会社の「Mottainai World」を設立し、現在はリユース店をカンボジアで6店舗、タイで3店舗を展開している。日本で売れ残った商品を集め、ジャンルや状態を仕分けして、海外に出荷し販売しているのだ。
 実はこの海外展開も従業員からの提案だったという。売れ残った商品を廃棄するのに大きなコストが掛かっていたため、それをどうにかできないかと考えた結果だった。
 カンボジアやタイなど、日本よりも所得水準が低い国では、日本では売れない商品がよく売れるという。そのため、海外に輸出すれば廃棄にかかっていたコストを随分減らすことができる。そしてこのビジネスモデルは本部でも注目され、本部直営店や他加盟店からも売れ残り商品が仕入れられるようになった。
 同社では現在、出荷センターを愛媛、福岡、沖縄、大阪、千葉と国内5拠点で展開している。そこへ集められた商品は海外へ輸出している。
「今後海外への展開はもっと広げて行きたいと考えており、社長室の壁に世界地図を貼って目ぼしい国にピンを立てています。ピンを立てるだけならタダですから(笑)。マレーシア、スリランカ、マダガスカルにも勝機があるように思っています。今治は村上海賊ゆかりの地。私たちにも海賊の血が流れているのか、海外への進出には全く抵抗がありません」

「戦略なきご縁経営なんです」

 海外進出に加えて、同社が近年注力しているのが地方創成事業だ。現在、愛媛県で温泉施設、宿泊施設、ソーセージ工房など12事業所を展開しているという。地方創成事業に取り組んだきっかけは、今治市が管理する温泉施設の運営を頼まれたからだという。
「リユースやフードのFC事業もそうですが、いずれも紹介や声掛けをいただいたので、すべて何がしかのご縁からスタートしています。だから当社は『戦略なきご縁経営』なんですよ(笑)。温泉施設も、市の方から『困っているから力を貸してほしい』と言われ、地域のためになるならと始めました」
また、井本社長は今の時代、自然であったり温泉であったり癒しを求める人が多くなってきていると考えているという。
今後はますます温泉や自然あふれる景色を求めて観光客が増えると見ているのだ。
そのため、同社では広大な土地を購入し保有しており、その土地を使って癒しを求めている人たちのニーズに応えられるようなものを、提供していく計画だ。

「事業を通じてありがとうの輪を」

 さらに井本社長は会社の継続に重きを置いており、長く持続する会社を目指している。売上高営業利益率を高め、潰れにくい強い会社の体質をつくっていきたいと話す。
「上場しているといっても、時価総額は30億円程度の会社です。弱者は弱者なりの戦略を立てなければなりません。会社も人と同じようにいずれはなくなるものだと思いますが、なるべく長く続く会社でありたいと思っています。そして、『こういう会社があって良かった』と一人でも多くの人に思ってもらえる会社にしたいですね。『こんな会社無い方が良かった』と言われたら、会社が存在する甲斐がないじゃないですか。そのためにも、今後も事業を通じて地域社会に貢献し『ありがとう』の輪を広げていきたいです」

同社が運営する「NATURE HOTEL NARUKAWA」

会社概要

ありがとうサービス
代表者 井本雅之
所在地 愛媛県今治市
設 立 2000年10月
資本金 547,507,600円
従業員 正社員約270人、パート・アルバイト約2000人
事業内容
●リユース店の経営
●飲食店(レストラン・フ ァーストフード)の経営
●その他、温浴施設等の経営
●不動産の賃貸

井本 雅之社長兼会長(69)
1956年1月6日愛媛県生まれ。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業。日本マーケティングセンター(現 : 株式会社船井総合研究所)入社。船井幸雄氏に師事。2000年MGS(現 : 株式会社ありがとうサービス)設立。2012年JASDAQ上場。2016年にカンボジア・2019年にタイに子会社を設立。現在ハードオフやブックオフなどのリユース事業、モスバーガーなどのフードサービス事業、温浴宿泊施設の運営と開発を中心とした地方創生事業を展開。

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