【JR九州ファーストフーズ】九州の「駅」から商業施設とロードサイドの両輪でエリア拡大(前編)
公開日:2025.10.20
最終更新日:2025.09.26
※以下はビジネスチャンス2025年10月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。
加盟ブランドのドッキング店を武器に225店舗を運営
JR九州ファーストフーズは、ファストフード業界のトップフランチャイジーだ。同社の加盟の歴史は、ケンタッキーフライドチキン、ミスタードーナツ、モスバーガーから始まり、現在はシアトルズベストコーヒーやシナボンなど、11ブランドで225店舗を展開するまでとなった。JR系ではあるものの、以前から駅ナカにとどまらず、ショッピングセンターやロードサイドにも精力的に出店。また17年以降は、地盤の九州から中国、関西、首都圏へと徐々にエリアを拡大してきた。自社の歴史の大半を知り、今年4月に初のプロパー社長に就任した村上悟郎社長に、フランチャイジーとしての経営戦略を聞いた。
1.22期連続で増収増益
国鉄民営化を機に発足
直近5期で店舗数3割増、売上高は約2倍に
前回、同社が本誌に登場したのは約4年前。当時の直近年商は103億4500万円(21年3月期)、店舗数は164店舗(21年3月末時点)だった。当時取材に応じた前任の永田史朗社長は、26年に年商150億円、店舗数200店舗突破を目標に掲げていたが、直近3月の決算では売上198億8000万円・店舗数216店舗。目標期限を1年残した状況で、すでに大幅クリアをしている。
国内最大級ファストフードFC9代目は初の生え抜き社長
同社はJR九州グループの一員として、主にファストフードやカフェ業態に特化したFC展開を行っている。中でも、「ケンタッキーフライドチキン」(以下 : KFC)は84店舗、「シアトルズベストコーヒー」(以下 : シアトルズベスト)は67店舗と、両ブランドにおいて国内最大のフランチャイジーにあたる。ほかにも「ミスタードーナツ」や「シナボン」、「サブウェイ」や「モスバーガー」、「かつや」や「スターバックス」(ライセンス契約)など、11ブランドで225店舗に及ぶ。
現在、22期連続で増収増益(経常)を続けており、コロナに突入した年度から直近の24年度の5年間の数字で見ると、売上高は92%増、年間平均出店は17.6店で退店が5.2店と、純増平均で12.4店となっている。
また5期のいずれも営業利益で黒字を維持しており、コロナ禍を挟みながらも順調な推移を見せている。
「コロナ期間は乗り切ったものの、渦中の2~3年はほかの飲食業と同じく、当社にとっても苦難の時期でした。イートインブランドの売上が落ちた分、新たに宅配やネット通販を始め、業績を戻しました。辛い目に遭っても頑張ったことが22年以降に成果となって返り、グッと伸びた感じですね」(村上社長)
そう語る村上社長はJR 九州グループからの出向ではなく、同社の生え抜き社員から登用された初めての社長である。同氏は18歳の時にアルバイトとして入社。大学卒業後に社員となり、店長、スーパーバイザー、営業部長、取締役などを経て、入社31年目となる今年4月に9代目社長に就任。同社の歴史を体感してきた人物だ。
| 運営店舗内訳 |
| ケンタッキーフライドチキン | 84店舗 |
| ミスタードーナツ | 27店舗 |
| シアトルズベストコーヒー | 67店舗(シナボン27店舗含む) |
| モスバーガー | 7店舗 |
| サブウェイ | 10店舗 |
| オリジナルパンケーキハウス | 5店舗 |
| かつや | 7店舗 |
| スターバックス(ライセンス契約) | 15店舗 |
| 騒豆花 | 2店舗 |
| ピザハット | 1店舗 |


グループとして2番目に発足 駅への価値付与が当初の目的
同社の誕生は、1987年の国鉄民営化の時期までさかのぼる。新たに発足したJR九州は、赤字路線を多数引き継いだことから、初年度に大幅赤字を計上。そこで以後の経営方針として、事業の多角化を決定した。
同社はその第一弾にあたり、「駅の付帯設備を増やしてお客さまの利便性を高め、駅に賑わいを作っていく」というコンセプトのもと、1989年にグループとしては2番目に発足した。
発足当初は鉄道部門から希望した社員を登用していたが、数年後には独自で社員の採用を開始。その頃に入社した中の一人が、村上社長である。
現在、JR九州グループでは本流の「運輸サービス」のほか、「不動産・ホテル」「建設」「ビジネスサービス」などのセグメントが存在しており、そのうちの1つが「流通・外食」。同セグメントは同社とJR九州リテール、JR九州フードサービスの3社を中心に構成されている。
JR九州リテールは、「ファミリーマート」や駅付帯の土産専門店を主軸に小売店を展開。JR九州フードサービスでは、居酒屋「うまや」の運営や駅ホームのうどん店など、オリジナル店を中心にFC店も運営している。
同じ飲食店を運営する JR九州フードサービスとは当初、「ファーストフーズ社は洋食系のFCビジネス、フードサービス社は和食系のオリジナル店舗」と棲み分けがなされていたという。しかしその後は、同社が「かつや」を、JR九州フードサービスが「ロッテリア」を運営するなど、その区分けはなくなりつつある。
「ブランドの棲み分けについて、グループ本体から細かく指摘されることはほぼありません。たとえばフードサービスが『吉野家』を運営しているので『かつや』は当社で、また当社は『シアトルズベスト』があるので『プロント』はフードサービス(※1)といった、大らかさがあります。もちろんグループ間で明らかな競業はしませんが、お互い独立した企業としてライバルでもあり、何かあれば協力もする、という関係です」(村上社長)
同社は設立年から矢継ぎ早に出店を開始。1989年に「KFC」別府駅店と「ミスタードーナツ」到津店の運営を開始。また91年には「モスバーガー」のFCにも加盟。駅に出店したいナショナルブランドと、首都圏で流行っている飲食店を出店したい同社との思惑が合致し、駅構内を中心にこの3ブランドでの出店を続けた。しかし、次第にその出店攻勢も行き詰まりを感じるようになる。
「ナショナルブランドには、創業期から出店しているほかのFCオーナーさんが既にいらっしゃいましたし、そういった方々の力が強い時代でしたので、後発の当社には本部から出店の制限が掛かります。他のFCの隙間を見つけて出店するしかなく、いよいよ出店場所が限られてきました。会社の成長を持続するために『競合が少ない新しい業態、本部からの出店制限がかからないような業態に挑戦しよう』と考えて選んだのが、『シアトルズベスト』でした」(村上社長)
※1 : プロントは現在閉店

設立と同時期に出店した「ミスタードーナツ」到津店
2.シアトルズベストで九州から飛躍
シアトル系コーヒーの上陸直後に加盟
国内約9割の67店舗を運営
「シアトルズベスト」は、スターバックスやタリーズと同じ、アメリカ西海岸発のシアトル系コーヒーチェーンだ。日本国内では、96年に出店したスターバックスの直後の99年に上陸しており、同社は2002年に1号店を出店。同ブランドは日本のマスターフランチャイジーが存在せず、同社がグローバル本部と直接フランチャイズ契約を結んでいる。
九州で40店舗突破し、大阪・東京へ進出 カフェ業態通じ店舗運営ノウハウを蓄積
今と違い、同社が「シアトルズベスト」を初出店した02年は、シアトル系コーヒーが日本に上陸したばかりの頃だった。国内にマスターフランチャイジーを置いていないシアトルズベストは、「本部から出店制限がかからない」「競合が少ない新しい業態」という同社が希望する条件に当てはまった。
「競合が全然いない頃ですので、出店し放題ではありました。ただ、当時は当社に力がなかった。シアトルズベストは、コーヒー豆のクオリティ面においてアメリカではスターバックスよりも評価されてきたブランドです。しかしその良さの広め方が分からず、最初はなかなか事業として成長させることができなかったのです」(村上社長)
国内のFC本部がないため、ノルマはあってもサポート体制はない。同社ではFC加盟以降、自力でノウハウを蓄積していくしかなかった。そんな中、同社は07年に「サブウェイ」のFCに加盟するが、これが吉と出る。同ブランドの運営を通じて、店の作り方や出店戦略、売上の積み上げ方を学んでいき、試行錯誤の末、独自の出店形態に行きつく。「サンドイッチのナンバーワンブランドを美味しいコーヒーで飲む」といった発想から生まれたサブウェイとシアトルズベストの2 in 1店舗だ。ここから潮目が変わり始める。「2 in 1は、客席と売り場が1つで、厨房はそれぞれの厨房を繋げています。お客様は2つのブランドから好きなメニューを組み合わせできる仕組みです。国内ではまだブランド力が弱いシアトルズベストでしたが、サブウェイと掛け合わせて付加価値をつけたことで、店を流行らせることができた。このあたりから良い店舗を作ることができるようになってきました」(村上社長)
この出店を通じて店作りへのヒントを得た同社は、2010年代半ばにはシアトルズベスト単体による九州主要駅での出店を完了。その数は40店舗を超えた。
「九州では首都圏に比べると駅の規模が小さく、大型駅は博多や小倉、熊本や鹿児島、長崎や大分くらい。もちろん、各駅に駅ビルもありますが、一通り出したらもう出店先がない。一方、関東や関西に出れば九州と同規模の駅は山ほどある。九州で40店舗なら全国で300~400店舗はいけるはず、と九州圏外へ進出しました」(村上社長)
後のコロナ禍により出店目標は変わることになるが、同社ではまず大阪、次に東京で拠点開設を進めた。そしてシアトルズベストのFC店を辞める企業から数店舗まとめて買い取る戦略で、17年に大阪で2店舗、19年に東京で6店舗を取得。そこで基盤をつくり、エリアを広げた。
その結果、19年には国内のシアトルズベスト店舗の7割以上が同社の運営となった。その頃には、グローバル本部からある程度の権限や裁量を認められるようになり、同社はマスターフランチャイジーに近い役割を担うようになる。
「シアトルズベストの国内マーケティングや物流、商品開発は全て当社が行っています。グローバル本部との直接契約は交渉ごとも多いですが、仲介者がいない分、ロイヤリティも下がるので利益率は全然違います」(村上社長)
国内でシアトルズベストを運営するFCはもう1社あるが、そちらへの商品供給やキャンペーンの伝達は同社が行っている。またフードの企画開発やデザインの権限も同社が保有しており、時にはグローバル本部が同社の許可をとった上で、アジアの他店舗でそのデザインを使うこともあるという。

日本上陸の3年後に1号店をオープンした
「シナボン」とのコラボで競争力向上 デベロッパーからの引き合いが相次ぐ
シアトルズベストのブランド力をさらに高めるための戦略が、同じくシアトル発祥のシナモンロール専門店「シナボン」との掛け合わせである。同ブランドは09年に国内から一度撤退したものの、年に再上陸。12年以降は同社が国内本部となった。特別な栽培手法で精製されたマカラシナモンを使用し、店舗で焼き上げまで行うシナモンロールには、前回の上陸時から国内でも根強いファンがついていた。
「シナボンとのコラボ店舗により、シアトルズベストの弱みでもあったフードとテイクアウトを強化することができました。シナボンには熱烈なファンがいらっしゃいますので、ブランドとしても強い。デベロッパーから出店要請をいただくことも非常に多いです」(村上社長)
JRグループでは、エリアごとに事業会社が存在するため、それぞれのグループが運営する駅構内への出店はNGだ。しかし駅直結の商業施設などはデベロッパーの采配によるため、出店対象となる。
事実、JR大阪駅直結の駅型商業施設であるルクア大阪でのコラボ店舗出店(22年)、JR東京駅改札隣接の東京ギフトパレットでの出店(25年)も、デベロッパーの要望によるシナボンとシアトルズベストのコラボ出店だったという。
「シアトル系コーヒーチェーン3社において、スターバックスにはブランド力では負けてしまいますが、一方でシナボンのように専門的なシナモンロールを提供するブランドはほかにありません。2ブランドをコラボさせることで、テイクアウトが多い区画などでは特に『こちらの方が面白いよね』となるのです」(村上社長)
2 in 1にすることで、店舗収益の向上も狙える。通常、シアトルズベスト単体で出店した場合、平均月商は600万円程度だが、シナボンとコラボすることでさらに400万円ほど売上を上乗せできるという。
他方、シナボンの単体店にもこの仕組みは活用できる。モールの1階にあるようなシナボンのスタンド店舗においては、シアトルズベストのドリンクを提供している。シナボンの業態傾向として、出店直後は爆発的な人気が出るものの、時間の経過とともに売上が伸び悩む点がある。
しかしコーヒーの売上は、反対に徐々に伸びる傾向があるため、次第にシナモンロールの売上と同等になっていく。その結果、スタンド店全体の売上が下がらない仕組みだ。また双方で宣伝効果も見込め、相乗効果となっている。
こうしたシナボンとのコラボも奏功し、現在シアトルズベストは九州や中国、関西や首都圏で67店舗まで拡大している。
同社の活路を切り開くことになった「シアトルズベスト×サブウェイ」の店舗

JR九州ファーストフーズ
(福岡市博多区)
村上 悟郎社長(49)
Profile◉むらかみ・ごろう
1976年1月生まれ。1994年にJR九州ファーストフーズにアルバイトとして入社。1998年に熊本学園大学を卒業後は社員となり、店長、スーパーバイザー、営業部長、取締役などを経て、2025年4月に代表取締役社長に就任(現任)。同社としては9代目の社長であり、生え抜き社員からの初の社長である。
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